日本人の口に“合わせない”中華が、いちばん日本人を夢中にさせている。話題の一冊『ガチ中華移民』が解く、「本場のまんま」の謎
「気がついたら、ランチも夕食もガチ中華」——そんな書き出しの書評が、読売新聞(評者・佐橋亮、つい先日掲載)で話題になっている。取り上げられたのは、中村正人『ガチ中華移民 日本で増殖する“本場中華料理”の謎』(太田出版・税込2,640円)。“ガチ中華”とは、わたしたちがなじんできた“町中華”——日本人の口に合わせて甘めにアレンジされた、あの優しい中華そば屋さん——とは似て非なるもので、中国から来た人たちが、本場の味をそのまま、日本人に媚びずに出すお店のことだ。評者も、打ち立ての麺に辛めのスープがよく似合う蘭州牛肉麺や、茹でた鶏肉に醤油を回しかけただけのご飯、羊肉が主役の料理に、すっかり虜だという。なぜ本場の味が日本で“増殖”するのか——本書のキモは、その担い手が、近年ぐっと増えた中国からの移民(=ガチ中華移民)で、お客もまず在日中国の人たちだから、という点。西川口や池袋が“ガチ中華の街”と呼ばれるのも同じ理由だ。日本人向けではなく、同じ国の人に向けて開いた店が、結果としてわたしたちの新しい行きつけになっていく。食いしん坊のひなたを筆頭に、4人がこの“本場のまんま”の謎を掘る。
ひなた:ふぁ〜…ねえ、聞いてほしいのです。きのう連れてってもらった中華やさん、ラーメンも、餃子も、なかったのです。……それで、お肉が、ぜーんぶ羊さんだったのです。あれは、いったい、なんだったのです……?
ことね:それはきっと“ガチ中華”ね、ひなた。いまね、ちょうど一冊、話題の本があるの。中村正人さんの『ガチ中華移民 日本で増殖する“本場中華料理”の謎』。つい先日、太田出版から出て、読売新聞でも書評が載ったのよ。
ひかり:ガチ中華!? なにそれ気になる……! わたしたちが知ってる、あの“町中華”とは、違うやつなの?
ことね:ぜんぜん違うの。“町中華”は、日本人の口に合うようにアレンジされた、あの優しい中華そば屋さんのこと。いっぽう“ガチ中華”は、中国から来た人たちが、本場の味を“そのまま”——日本人に合わせず、中国の人が「これこれ!」って言う味で出すお店なの。書評の人も、打ち立て麺に辛いスープの蘭州牛肉麺とか、茹でた鶏肉に醤油を回しかけただけのご飯に、すっかり夢中だ、って書いてたわ。
みずき:…で? 本場の味なら、現地で食べればいいじゃん。なんで、わざわざ日本で“増殖”してるわけ?
ことね:そこが、この本のキモなの。作ってるのは、近年ぐっと増えた中国から来た人たち——いわば“ガチ中華移民”。で、お客さんも、まずは日本に住む中国の人たちなの。だから、日本人向けに甘くする必要がなくて、本場のまんまを出せる。西川口とか池袋が“ガチ中華の街”って言われるのも、それでね。日本人ねらいじゃなくて、同じ国の人に向けて開いたお店が、結果わたしたちにも見つかった——っていう順番なのよ。
みずき:…へえ。日本人に媚びてない中華が、いちばん日本人に刺さってる。……“盛らない”のが、いちばん強い、ってことか。
ひかり:なんかそれ、かっこいいね……! 本場の味、急に食べに行きたくなってきたっ!
ひなた:ふぁ〜…わたし、わかったのです。きのうの羊さんが“なんか違う”って思ったのは、あのお店が、わたしに合わせてくれなかったから、なのです。……でもね、合わせてもらえないって、ちょっと、うれしいのです。だって、その人が“ほんとうにおいしい”と思ってる味を、まるごと、おすそわけしてもらえた、ってことなのです。次は、辛いスープのも、ぜんぶ食べてみるのです……!
まとめ:日本人の口に“合わせない”中華が、いちばん日本人を夢中にさせている——という、ちょっと痛快な一冊。担い手は近年増えた中国からの移民で、まず同じ国の人に向けて開いた店が、結果わたしたちの新しい行きつけになった。みずきの言うとおり“盛らない”のがいちばん強くて、ひなたの言うとおり、合わせてもらえないのは「その人のほんとうの好き」をおすそわけしてもらえること。さあ、次は羊肉と、蘭州牛肉麺だ。