年齢確認から逃げる道具に、年齢確認をつける——イギリス上院、18歳未満の「VPN利用」を止める案を207対159で可決。抜け道に関所、その先にまた抜け道
「ネットの年齢確認、めんどうだからVPNでスルーしちゃえ」——その流れに、イギリスが“次の手”を打とうとしている。発端は、同国の『オンライン安全法(Online Safety Act)』。去年7月から、アダルトなど大人向けサイトは、入口で「あなた、18歳以上ですか?」と年齢確認するのが義務になった。ところが施行された初日、その確認をすり抜けようと、VPN(自分が今どこからネットを見ているかを、別の場所にすり替えて見せる道具)の利用が1400%以上もはね上がった。そこで議会が動き、ことし1月、上院(貴族院)が賛成207・反対159で、18歳未満にVPNを使わせない——正確には“その人が子どもかどうかを、きわめて正確に見分ける年齢確認”を、VPN業者にも求める——という案を可決した。VPNそのものの禁止ではなく、まだ法律として確定もしておらず、いまは下院との間で文言をやり取りしている最中だ。とはいえ、「匿名でいるための道具に、実名で入る」ねじれや、抜け道をふさぐたびに新しい関所が増えて大人もそこを通らされる問題は残る。前に扱ったノルウェーの『子どもにAIを使わせない』が“使わせない”規制なら、これは“すり抜けさせない”規制。線をどこに引くかで、ずっともめている。ひかり・ことね・みずき・ひなたの4人が掘る。
ひかり:ねえ、これ、わたしのあたまが混乱してるだけかな……? イギリスでね、『年齢確認をすり抜けるための道具』に、『年齢確認』をつけよう、っていう案が、議会で通りかけてるんだって。……ねえ、それ、ぐるぐる回ってない!?
ことね:順番に整理しましょうね。発端は、イギリスの『オンライン安全法』。去年の7月から、アダルトなど“大人向け”のサイトは、入る前に「あなた、18歳以上ですか?」って確認するのが義務になったの。いわゆる、年齢確認ね。
ひかり:うんうん、そこは、まあ、わかる。……でね、ことね先輩。そこから、どうして“VPN”の話になるの? そもそも、VPNって、なに?
ことね:VPNはね、すごくざっくり言うと、“自分が今どこからネットを見てるか”を、別の場所にすり替えて見せる道具なの。日本にいながら「わたし、いまアメリカから見てまーす」って、見せかけられる。だから、年齢確認のあるイギリスにいても、“別の国から来たふり”をすれば、すり抜けられちゃう。……実際、義務化された初日、イギリスでVPNを使う人が、1400%以上もはね上がったの。
みずき:…で、ふさいだ抜け道を、みんなVPNでまたいだ。だから今度は、そのVPNにも年齢確認をつける、と。……モグラたたきじゃん。たたいたモグラの上に、新しいモグラを置いてるだけ。
ことね:それで、ことし1月にね、イギリス議会の上院が、賛成207・反対159で、こんな案を通したの——18歳未満には、VPNを使わせない。正確には、“その人が子どもかどうかを、きわめて正確に見分ける年齢確認”を、VPN業者のほうにもやらせる、という案ね。まだ決まってはいなくて、いまは下院との間で、文言をやり取りしてる最中。VPNそのものを禁止、ってわけじゃないのよ。
みずき:…でも、おかしくない? VPNって、そもそも“自分が誰だか分からないように”するための道具でしょ。それを使うのに、まず本名と顔を見せて年齢確認しろ、って。……匿名になる道具に、実名で入る。で、それ誰得?
ことね:そこが、この話のいちばん難しいところなの。子どもを守りたい、っていう気持ちは、本物。でも、すり抜けをふさぐたびに、新しい関所が増えて、ぜんぶの大人も、そこを通らされる。しかも、関所ができれば、また別の抜け道をさがす人も出てくる。前に、ノルウェーが「子どもにAIを使わせない」道を選んだ話をしたでしょう? あれが“使わせない”規制なら、こっちは“すり抜けさせない”規制。どっちも、線をどこに引くかで、ずっともめてるのよ。
ひなた:ふぁ〜…あのね。おうちのクッキーの缶に、わたしが手を出さないように、フタに鍵をかけたのです。……そしたら今度は、その鍵を、わたしが見つけちゃったのです。
ひなた:それで、こんどは鍵をしまう引き出しにも、鍵がついて……鍵が、どんどん増えていくのです。でもね、ほんとうは、「どうして食べちゃだめなのか」を、いちど、ちゃんとお話してくれたら……わたし、たぶん、待てたのです。鍵をぜんぶ数えるより、そっちのほうが、ずっと、はやい気がするのです。
まとめ:ネットの年齢確認をすり抜けるためにVPNが使われた——だから今度は、そのVPNにも年齢確認を。イギリスで実際に議論されている、ちょっとぐるぐるした話。みずきの言うとおり「匿名でいるための道具に、実名で入る」ねじれもあれば、ことねの言うとおり、子どもを守りたい気持ちも本物だ。鍵に鍵を重ねていくより、ひなたの言う「どうしてダメか、いちど話す」のほうが、案外ちか道なのかもしれない。