世界が終わる町に「ありがとう、チャック!」の奇妙な広告——人生を“逆再生”するスティーヴン・キングの中編が、最後に「あなたも図書館だ」と泣かせにくる

「世界がもうすぐ終わる——海は割れ、町は崩れていく。なのに街じゅうの看板にもテレビにも、おなじ広告が流れる。『39年のすばらしき歳月。チャールズ・クランツに感謝します。ありがとう、チャック!』。……チャックって、だれ?」——そんな不思議な始まりの小説が、書評サイトで“傑作”と紹介され話題に。原作はスティーヴン・キングの中編「チャックの数奇な人生」(邦訳書『チャックの数奇な人生 イフ・イット・ブリーズ』文藝春秋、訳=安野玲・高山真由美。「ハリガンさんの電話」も収録)。先月(5月1日)日本公開された映画「サンキュー、チャック」の原作でもある。物語の作りが変わっていて、わざと“第三幕”=最後の場面から始め、そこからチャックという一人の男の人生を巻き戻していく。レビュアーの乗代雄介は、アフリカの言葉「老人が一人死ぬとき、図書館が一つ焼け落ちる」が物語の通奏低音だと指摘し、「再建はできなくとも、そこに蓄えられたものは何らかの形できっと輝きを放つ」と評する。つまり“ふつうの人ひとりの一生”が、それ自体ひとつの世界=図書館なのだ、という話。映画版は監督・脚本マイク・フラナガン、主演トム・ヒドルストン、マーク・ハミルらが出演し、トロント国際映画祭で観客賞を受賞している。ひかり・ことね・みずき・ひなたの4人が掘る。

ひかり:ねえ、ちょっと不思議な話、聞いてくれる? 世界がもうすぐ終わっちゃうの。海は割れて、町はぐしゃぐしゃ。……なのにね、街じゅうの看板にも、テレビにも、ラジオにも、おんなじ広告が流れるんだって。『39年のすばらしき歳月。ありがとう、チャック!』……ねえ、チャックって、だれ!? なんでお礼されてるの!? 気になって眠れないっ!

ことね:それね、スティーヴン・キングの小説「チャックの数奇な人生」。先月公開された映画「サンキュー、チャック」の原作なの。お話の作りがすごく変わってて——わざと“第三幕”、つまり物語のいちばん最後の場面から始めて、そこからチャックっていう男の人の人生を、どんどん巻き戻していくのよ。終わりから、生まれたほうへ。

ひかり:えっ、人生を逆再生!? 最後から始まるお話なんて、聞いたことないっ! でも待って……世界が終わる大事件なのに、主役がチャックさんっていう“ふつうのおじさん”なの? どういうことぉ?

みずき:…そこ、わたしも引っかかった。世界が滅ぶ寸前に、見ず知らずのオッサンに感謝する広告を、全国に流す余裕がある。…誰がその広告費出してんの。で、それ誰得な広告なわけ。

ことね:それがこの物語の仕掛けなの、みずき。“なぜ世界の終わりに、チャックへの感謝が溢れるのか”——その謎が、人生を遡るうちに、だんだん腑に落ちてくる。種明かしはしないでおくけど……ひとりの“ふつうの人”の一生って、それ自体が、まるごとひとつの世界なんだ、っていうお話なの。

ひなた:ふぁ〜……チャック……。あのね、わたし最初、チャックさんって“食べ物”の名前かと思ったのです。ほら、チョコの、ごろっとした、チャンク、みたいな……。……でも「39年、ありがとう」って、なんだか、卒業式でもらうお手紙みたいなのです。だれかの一生に、みんなで「ありがとう」って言う……すてきなのです。

ことね:映画のほうもね、すごい顔ぶれなの。監督・脚本があのマイク・フラナガン、主演はトム・ヒドルストン——“ロキ”の人ね。しかも、なんとマーク・ハミル——ルーク・スカイウォーカーまで出てる。トロント国際映画祭で観客賞も獲ってて、評判はとてもいいのよ。

みずき:…ロキとルークが出る、終末もの。…なにそれ、ちょっと気になるじゃん。さっき“誰得”って言ったけど。…前言撤回。ちょっと、観てみたい。

ひなた:ふぁ〜……あのね、この本の感想に、すてきな言葉があったのです。『おじいさんがひとり亡くなると、図書館がひとつ、焼けてしまう』って。……わたし、はじめ、火事のお話かと思ったのです。……でもちがうのです。ひとりの人のあたまの中には、よんだ本も、たべたごはんも、わらった日も、ぜんぶ入ってる。だから、人がひとり、まるごと図書館いっこぶん、なのです。

ことね:……ひなた、それがまさに、この物語のいちばん真ん中にある言葉なの。レビューでも、その“図書館”の一節が物語ぜんたいに低く響く通奏低音だ、って書かれてた。「再建はできなくても、そこに蓄えられたものは、きっと何かの形で輝きを放つ」って。……世界が滅ぶ広告の謎で読者を釣っておいて、最後は“あなたも、ひとつの図書館だ”で泣かせにくる。キング、やっぱりすごいのよ。

まとめ:スティーヴン・キングの中編「チャックの数奇な人生」(先月公開の映画「サンキュー、チャック」原作、邦訳書は文藝春秋)は、世界が終わりゆく中で街に「39年のすばらしき歳月、ありがとう、チャック!」という奇妙な広告が溢れる物語。“第三幕=最後”から始め、チャックという一人の男の人生を巻き戻していく逆再生構造で、「ふつうの人ひとりの一生が、それ自体ひとつの世界」だと描く。レビュアー乗代雄介は、アフリカの言葉「老人が一人死ぬとき、図書館が一つ焼け落ちる」が物語の通奏低音だと指摘する。映画版は監督マイク・フラナガン、主演トム・ヒドルストン、マーク・ハミルらが出演しトロント国際映画祭の観客賞を受賞。みずき曰く、ロキとルークが出る終末もの、誰得と言ったけど前言撤回、観たい。ひなた曰く——人がひとり、まるごと図書館いっこぶん、なのです。

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