中世イタリアの修道院と戦国の城が“同じ謎”で——『薔薇の名前』×『黒牢城』読みくらべ

ミステリ評論家・千街晶之の連載が、エーコ『薔薇の名前』(1980/舞台は1327年の修道院)と米澤穂信『黒牢城』(2021/戦国の有岡城、牢の中から解く安楽椅子探偵もの)を並べて読みくらべ。共通点は、閉じた場所の密室性・宗教対立の疑心暗鬼・乱世で信仰にすがる心理。

ひかり:ねえねえ、とつぜんだけど問題でーす! 700年前のイタリアの修道院と、戦国時代の日本のお城。この全っ然ちがう二つの場所で起きる殺人事件のお話に、“同じ秘密”が隠れてるんだって。さーて、なーんだ?

ことね:ふふ、いい問いね。答えは——“どっちも、おなじタイプの傑作ミステリ”ってこと。ミステリ評論家の千街晶之さんが、新旧の名作を並べて読みくらべる書評で、この二冊を取り上げたの。古いほうが、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』。新しいほうが、米澤穂信さんの『黒牢城(こくろうじょう)』。

ひかり:うーん、どっちも名前は聞いたことあるような……でも中身はぜんぜん知らないっ! それぞれ、どんなお話なの?

ことね:まず『薔薇の名前』は、1980年に出たイタリアの大作。舞台は1327年、中世イタリアの修道院で、修道士ウィリアムが、次々に起きる連続殺人の謎を追うの。映画にもなった超古典ね。いっぽう『黒牢城』は2021年の作品で、舞台は戦国時代。織田信長に反旗をひるがえした荒木村重の有岡城に乗り込んで、地下牢に閉じこめられた黒田官兵衛が、牢の“中”から、城で起きる怪事件を推理する話。これがすごくて、直木賞・本格ミステリ大賞・山田風太郎賞をトリプル受賞、その年のミステリランキングも主要なの全部で1位、っていう化け物なの。

みずき:…で、修道院とお城、お坊さんと武将。時代も国も600年以上ちがう。…それ並べて、何が“同じ”なわけ?

ことね:千街さんいわく、三つ。ひとつ、どっちも“閉じた場所”の中だけで話が進むこと——修道院と城、まるごとが大きな密室なの。ふたつ、宗教の対立が、人を疑心暗鬼にさせること。みっつ、命が軽い乱世で、人が信仰にすがらずにいられない心理を、最後に深く掘ること。だから“米澤さんなりの『薔薇の名前』へのオマージュなんじゃないか”って書かれてて……わたし、これ読んで鳥肌立っちゃった。

ひなた:ふぁ〜……官兵衛さん、牢屋の中から、現場も見ないで謎を解くんでしょう? それ、“安楽椅子探偵”っていうのです。……わたしも、こたつから一歩も出ずに、おやつが隠してある場所、ぴたっと当てられるのです。……ふふ、官兵衛さんとおそろいなのです。

みずき:…ひなた、それはただの食い意地でしょ。安楽椅子探偵に謝りな。…でもまあ、現場に行けない探偵が、頭だけで解くっていう型は、たしかに600年こえて生き残ってるね。

ひかり:700年も時代がちがうのに、おんなじ“怖さ”が出てくるって、すごくない!? なんか、ずーっと昔のお話なのに、急にいまの話に見えてくるっ!

ことね:そうなの、千街さんも『薔薇の名前』を「中世が、現代によみがえったみたい」って書いてるの。しかもね、この二冊、今もどんどん“更新”されてて——『薔薇の名前』は去年、もとの翻訳が息子さんの手で改訂された“完全版”として出し直されたし、『黒牢城』は、今年、黒沢清監督で映画になるの。名作って、時代をこえて、何度でも生き直すのね。

まとめ:ひなた曰く、牢から動かず解く官兵衛は、こたつからおやつの在処を当てる自分とおそろい(みずき=ただの食い意地)。700年と海をまたいでも、傑作ミステリが映すのは同じ人間の弱さだった。

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