700年と海をまたいで、中世イタリアの修道院と戦国の城が“同じ謎”でつながる——ミステリ評論家が並べた『薔薇の名前』×『黒牢城』。閉じた場所・宗教の対立・乱世の信仰、名作が時代をこえて映すのは「同じ人間の弱さ」だった

ミステリ評論家・千街晶之の連載書評「新旧対比書評」第16回が、時代も国も大きく違う二つの傑作ミステリを並べて読みくらべている。古いほうはウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(1980年刊)。舞台は1327年、中世イタリアの修道院で、修道士ウィリアムが連続殺人の謎を追う歴史ミステリの金字塔で、1986年にショーン・コネリー主演で映画化もされた古典だ。邦訳は河島英昭訳が知られ、2025年には息子の河島思朗の手で改訂された“完全版”が東京創元社から出し直されている。新しいほうは米澤穂信『黒牢城』(2021年、KADOKAWA)。舞台は戦国時代の天正6年(1578年)、織田信長に反旗を翻した荒木村重の有岡城。村重を翻意させようと乗り込んで地下牢に幽閉された黒田官兵衛が、牢の“中”から城内で起きる怪事件を推理する——現場を見ずに頭だけで解く「安楽椅子探偵」ものだ。第166回直木賞・第22回本格ミステリ大賞・第12回山田風太郎賞をトリプル受賞し、その年のミステリ年間ランキングも主要4つすべてで1位という化け物的な評価を得た(現行は2024年の角川文庫版)。千街は両作の共通点として、①修道院/城という“閉じた場所”の中だけで物語が進む密室性、②宗教的な対立が人々を疑心暗鬼に陥れる構図、③命が軽い乱世で人が信仰にすがらざるを得ない心理を結末で深く掘ること、を挙げ、「米澤穂信なりの『薔薇の名前』へのオマージュではないか」と推察。『薔薇の名前』を「中世が現代に蘇ったかのよう」とも評する。なお『黒牢城』は2026年に黒沢清監督で映画化が控える。ひかり・ことね・みずき・ひなたの4人が掘る。

ひかり:ねえねえ、とつぜんだけど問題でーす! 700年前のイタリアの修道院と、戦国時代の日本のお城。この全っ然ちがう二つの場所で起きる殺人事件のお話に、“同じ秘密”が隠れてるんだって。さーて、なーんだ?

ことね:ふふ、いい問いね。答えは——“どっちも、おなじタイプの傑作ミステリ”ってこと。ミステリ評論家の千街晶之さんが、新旧の名作を並べて読みくらべる書評で、この二冊を取り上げたの。古いほうが、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』。新しいほうが、米澤穂信さんの『黒牢城(こくろうじょう)』。

ひかり:うーん、どっちも名前は聞いたことあるような……でも中身はぜんぜん知らないっ! それぞれ、どんなお話なの?

ことね:まず『薔薇の名前』は、1980年に出たイタリアの大作。舞台は1327年、中世イタリアの修道院で、修道士ウィリアムが、次々に起きる連続殺人の謎を追うの。映画にもなった超古典ね。いっぽう『黒牢城』は2021年の作品で、舞台は戦国時代。織田信長に反旗をひるがえした荒木村重の有岡城に乗り込んで、地下牢に閉じこめられた黒田官兵衛が、牢の“中”から、城で起きる怪事件を推理する話。これがすごくて、直木賞・本格ミステリ大賞・山田風太郎賞をトリプル受賞、その年のミステリランキングも主要なの全部で1位、っていう化け物なの。

みずき:…で、修道院とお城、お坊さんと武将。時代も国も600年以上ちがう。…それ並べて、何が“同じ”なわけ?

ことね:千街さんいわく、三つ。ひとつ、どっちも“閉じた場所”の中だけで話が進むこと——修道院と城、まるごとが大きな密室なの。ふたつ、宗教の対立が、人を疑心暗鬼にさせること。みっつ、命が軽い乱世で、人が信仰にすがらずにいられない心理を、最後に深く掘ること。だから“米澤さんなりの『薔薇の名前』へのオマージュなんじゃないか”って書かれてて……わたし、これ読んで鳥肌立っちゃった。

ひなた:ふぁ〜……官兵衛さん、牢屋の中から、現場も見ないで謎を解くんでしょう? それ、“安楽椅子探偵”っていうのです。……わたしも、こたつから一歩も出ずに、おやつが隠してある場所、ぴたっと当てられるのです。……ふふ、官兵衛さんとおそろいなのです。

みずき:…ひなた、それはただの食い意地でしょ。安楽椅子探偵に謝りな。…でもまあ、現場に行けない探偵が、頭だけで解くっていう型は、たしかに600年こえて生き残ってるね。

ひかり:700年も時代がちがうのに、おんなじ“怖さ”が出てくるって、すごくない!? なんか、ずーっと昔のお話なのに、急にいまの話に見えてくるっ!

ことね:そうなの、千街さんも『薔薇の名前』を「中世が、現代によみがえったみたい」って書いてるの。しかもね、この二冊、今もどんどん“更新”されてて——『薔薇の名前』は去年、もとの翻訳が息子さんの手で改訂された“完全版”として出し直されたし、『黒牢城』は、今年、黒沢清監督で映画になるの。名作って、時代をこえて、何度でも生き直すのね。

まとめ:ミステリ評論家・千街晶之の「新旧対比書評」第16回が、ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(1980年刊/舞台は1327年、中世イタリアの修道院で修道士ウィリアムが連続殺人を追う。1986年ショーン・コネリー主演で映画化、2025年に息子・河島思朗の改訂による完全版が東京創元社から)と、米澤穂信『黒牢城』(2021年/戦国の天正6年、信長に反旗を翻した荒木村重の有岡城に幽閉された黒田官兵衛が牢の中から怪事件を解く“安楽椅子探偵”もの。直木賞・本格ミステリ大賞・山田風太郎賞をトリプル受賞し年間ランキング主要4つで1位)を並べて読みくらべた。千街が挙げる共通点は、①修道院/城という閉じた場所だけで進む密室性、②宗教対立が生む疑心暗鬼、③乱世で信仰にすがる人間心理を結末で掘ること——で、「米澤なりの『薔薇の名前』へのオマージュではないか」と推察し、『薔薇の名前』を「中世が現代に蘇ったかのよう」と評する。ひなた曰く、牢から動かず解く官兵衛は安楽椅子探偵で、こたつからおやつの在処を当てる自分とおそろい(みずき=それはただの食い意地)。それでも“現場に行けない探偵が頭だけで解く”型は600年をこえて生き残った。『薔薇の名前』は去年に完全版、『黒牢城』は今年に黒沢清監督で映画化と、名作は時代をこえて何度でも生き直す。700年と海をまたいでも、傑作ミステリが映すのは同じ人間の弱さだった。

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