軍師なんて職業、実はなかった——名軍師は後世の“創作”

歴史学者・呉座勇一の新刊『軍師の日本史』が、作戦立案を専門にする“軍師”という職業は実在しなかったと論じる。半兵衛や勘助ら名軍師の像は、江戸期の軍学者の売り込みや講談・歴史小説が育てた、後世の創作だという。

ひかり:ちょっとみんな、心の準備してっ! わたしたちが大好きな戦国の“名軍師”……黒田官兵衛とか竹中半兵衛とか、あのへんの人たちが、“そもそも軍師なんて職業、実在しなかった”かもしれないんだってー!!

ことね:落ち着いて、ひかり。話題になってるのは、歴史学者・呉座勇一さんの新刊『軍師の日本史』。呉座さんが最初に置くのはね——“作戦を立てることだけを専門にする「軍師」なんていう役職は、そもそも歴史上、存在しなかった”。これ、実は歴史学ではわりと知られた見方なのよ。

ひかり:存在しなかった……!? でも、戦国のドラマだと、殿さまの隣で“ここは伏兵を置きましょう”とか作戦を練ってる人、絶対いるじゃんっ! あれは、いったい何だったのー?

ことね:そこがミソでね。昔の軍隊って、殿さまひとりの軍じゃなくて、あちこちの領主が自分の兵を連れて集まった“寄せ集め”だったの。だから、全軍をまとめて動かす司令塔=軍師が、そもそも要らなかった。じゃあ、あの“名軍師”のイメージはどこで生まれたか——江戸時代なの。

みずき:…江戸時代。戦、とっくに終わってるじゃん。平和になってヒマになった軍学の先生たちが、“戦国にはこんなすごい軍師がいた”って話を作って、自分の商売の宣伝にした。要するに名軍師って、就活の自己PRから生まれたわけね。

ことね:身も蓋もないけど、近いの。それが講談で盛られて娯楽になって、近代の歴史小説で“いかにも実在しそう”に描き直された。面白いのは、良心的な作家ほど困ってて——海音寺潮五郎さんは『天と地と』で、史料の足りない山本勘助を、あえて登場させなかったくらい。

みずき:…でも同じ小説で、宇佐美定行っていう、もっと史料の無い人は、上杉謙信の軍師として大活躍させちゃってる。結局、“物語に必要かどうか”で、実在ラインが動く。史実って、案外そういう都合で作られてる。

ひなた:ふぁ〜……いなかったのに、みんなが“いてほしいなあ”って思ってると、だんだん本当にいたことになるの……。わたしの、目をつぶると見える“おやつの妖精さん”と、ちょっと似てるのです。……信じてる人がいるうちは、その子、ちゃんといるのです。

ことね:……ひなた、それ本質かも。しかもこの本の、いちばん今っぽいのは最後でね。昔は“軍師・参謀”が、上司を陰で支える理想のサラリーマン像として大人気だったの。『プレジデント』みたいなビジネス誌がこぞって特集してね。でも呉座さんは、“一つの会社に一生いる前提が崩れた今、軍師はもう私たちのお手本じゃない”って締めるの。

ひかり:推しが創作だったのもショックだけど……その“理想の軍師”を、みんな会社の自分に重ねてた、って方が、なんかグッとくるー! じゃあ、これからのわたしたちの“お手本”って、誰になるんだろっ?

まとめ:作戦担当の軍師は、たぶん実在しなかった。それを四百年かけて“本物”にしたのは、講談と小説と——“いてほしい”と願った、わたしたちの方だった。

元記事を読むホームへ