新旧ミステリー対比、"戦時下で抗う人"を描いた2冊
評論家・千街晶之が新旧のミステリーを対比する連載で、戦前1932年の浅草を描く西村京太郎『浅草偏奇館の殺人』と、東京大空襲下の1945年を描く石川智健『エレガンス』を並べた。時代は30年以上離れても、どちらも"抑圧の時代に自分を貫いた人"を描く。
ひかり:ねえ、おもしろい書評を見つけたの! ミステリーの"新旧対比"っていって、昔の名作と最近の話題作を、あえて並べて読み比べる連載なんだけど……今回のペアがね、舞台がどっちも"戦争の時代"なんだって。
ことね:千街晶之さんの連載ね。今回並んだのは二冊。旧のほうは、西村京太郎さんの『浅草偏奇館の殺人』。昭和7年——1932年の浅草六区、活気あふれる劇場を舞台にした連続殺人ミステリーよ。
みずき:…西村京太郎って、寝台特急でアリバイ崩す、あのトラベルミステリーの大御所じゃん。その人が戦前の浅草もの? ちょっと意外。
ことね:そこが読みどころなの。派手な事件の裏で、じわじわ迫ってくるのは"戦争の足音"。犯人の心にも、これから来る思想統制への不安が影を落としてる——ただの謎解きじゃなくて、時代の空気ごと閉じ込めてるのよ。
ひかり:へえ〜。ことね先輩、で、もう一冊の"新"のほうは?
ことね:石川智健さんの『エレガンス』、去年出たばかりの本。舞台は1945年、東京大空襲の下の東京。探偵役がなんと実在の人でね。警視庁でただ一人ライカのカメラを扱えた石川光陽と、"吉川線"を編み出した鑑識の名人・吉川澄一。この二人が、洋装の女性ばかりが続けて亡くなる不審死を追うの。
ひかり:実在の人が探偵役なんだ! ……あれ、でも"エレガンス"って、なんだかおしゃれなタイトルだね。空襲のお話なのに?
みずき:そこが肝、っぽい。あの頃は"ぜいたくは敵"で、みんな地味な身なりを強いられてた。なのに彼女たちは、洋装でおしゃれをしてた。……服くらい好きにさせろっていう、静かな抵抗。それが、タイトルの"エレガンス"。
ことね:そう。千街さんの見立てはね——30年以上離れた二冊なのに、どちらも"抑圧の時代に、自分を手放さなかった人"を描いてる、って。とくに『エレガンス』は、いま読むほど響く一冊だって。
ひなた:ふぁ〜……こわい時代でも、すきな服を着る。それって、"わたしはわたし"って、小さな声で言いつづけることなのです。……その小さな声が、ずうっと後の、いまのわたしたちにまで届くの、すごいのです。
まとめ:こわい時代に、すきな服を着る。それだけの"抵抗"を、30年ちがう二冊が、それぞれのやり方で描いていた。