コーヒーの粉で占う500年の風習、本命は占いじゃない
飲み終えたカップを伏せ、内側に残った粉の模様で運勢を読むトルコの「カフヴェ・ファル」。オスマン帝国の宮廷が発祥と語り継がれ、2013年にはコーヒー文化ごとユネスコ無形文化遺産に登録された。
みずき:…占い、信じないんだけど。コーヒーの粉の模様で運勢がわかるって、さすがに無理があるでしょ。
ことね:ええ、当たる当たらないの話ではないのよ。トルコの「カフヴェ・ファル」ね。濾さずに粉ごと淹れる濃いコーヒーを飲んで、カップをお皿にかぶせるように伏せる。冷めるまで待って、内側についた模様を読む。500年続いている作法なの。
ひなた:ふぁ〜…カップをひっくり返しちゃうのですか? おうちでやったら、ぜったいおこられるやつなのです。
ことね:それが正式な手順なの。読み手は「ファルジュ」と呼ばれて、話のうまい年上の女性が務めることが多かったそうよ。……で、面白いのが広まり方でね。当時のコーヒーハウスは男性の場所で、女性は入れなかった。だから女性たちは家の中でカップを囲んだ。宮廷から始まった、と語り継がれているわ。
みずき:…入れないから家で飲んだ。それだけの話に聞こえるけど。
ことね:そこに一段しかけがあるの。「占い」という形をとると、言いにくいことが言えるでしょう。不満も、噂も、口にしにくい相談も——「カップにそう出てる」なら、自分が言い出したことにならないもの。去年出た言語学の研究でも、現代のファルの場が悩みの打ち明け合いと、女性同士の支え合いの場になっていると分析されているの。22回ぶんの会話を録って、模様を220種類に分類して——
みずき:…つまり占いは口実で、本題は愚痴ってこと。
ひなた:ふぁ〜…わかるのです。おやつを食べながらだと、いやだったことも言えるのですよ。お口が動いてると、心も動くのです。
ことね:その感覚、じつは公式見解に近いのよ。2013年にユネスコがトルコのコーヒー文化を無形文化遺産に登録したときの説明——主役は「親しい人と打ち明け話をする機会」のほう。占いのくだりは、そのあとに一行そえられているだけなの。
みずき:…500年ぶんの言い訳が、世界遺産。悪くない。
まとめ:当たらなくていい占い。「カップがそう言ってる」の一言で本題を切り出せるなら、500年もつわけだ。