古本を箱ごと買って裁断。AIが欲しがる"2022年より前"
AI各社が中古の紙の本をパレット単位で買い集めている。背表紙を切り落として高速スキャンし、原本は処分。ネットの文章にAI製が混ざりすぎたため、"2022年より前に刷られた本"が汚染されていないデータとして狙われている。
ひかり:これ見てっ! ある会社の宣伝文句なんだけどね——「世界最高のAI用の学習データは、棚の上に置いてある」。……棚? 棚の上って、何が置いてあるのー?
ことね:本よ。紙の本。宣伝しているのはISBNdbっていう、"世界最大の本のデータベース"を名乗る会社ね。もともとは図書館や書店向けのサービスだったのに、いまはAI企業向けに中古の本をまとめて調達する仕事をしているの。注文は1000冊から、多いと100万冊単位。
みずき:…紙? ネットに文章なんて、いくらでも落ちてるでしょ。わざわざ古本を箱買いする意味は。
ことね:そのネットが、もう汚れてしまったのよ。いまウェブに転がっている文章には、AIが書いたものが大量に混ざっている。AIが吐いたものをAIに食べさせると、代を重ねるごとに少しずつ質が落ちていくの——「モデル崩壊」って呼ばれる現象ね。だから狙われるのが、2022年より前に印刷された本。大規模言語モデルが広まる前の紙だから、AI製の文章が物理的に混ざりようがないの。
みずき:…で、買った本はどうなるの。棚に並べて、1ページずつめくって撮ってくれるわけ?
ことね:そこがいちばん引っかかるところ。速さと安さが優先で、背表紙を切り落とすの。バラけたページを高速スキャナに通して、読み終わった原本はそのまま処分。裁判ではこのやり方——買った本をスキャンして原本を捨てる——は「明らかに変形的な利用」で、フェアユースにあたると認められているのよ。ほら、この前ここで話したAnthropicの15億ドルの和解、あれは"海賊版を落として集めた"のが問題だった。ちゃんと買っていれば、切っても法律上は咎められない。
ひかり:えっ、買えば切っていいのっ!? でも絶版の本とか、外国語の珍しい本まで混ざってたら……誰かがまだ読みたかったかもしれないよっ!
みずき:…それを確かめる方法もない。仲介の会社、契約ごとに秘密保持を結んで、買い手の名前は絶対に出さない方針だし。しかも自分たちで言ってるんだよね——「見え方の問題は本当にある。"AI企業が200万冊を破棄"は、同情を集める見出しじゃない」って。分かっててやってる、いちばん強いやつ。
ことね:救いもあるのよ。ハーバード大の図書館が、著作権の切れた本を約100万冊、254の言語ぶんデジタル化して公開しているの。こっちなら1冊も切らずに済む。アメリカ最大の書籍卸のIngramも、出版社に注意を呼びかけて、AI学習向けには売らない選択肢を用意したそうよ。
ひなた:ふぁ〜……給食のパンは、わたしが食べたらなくなるのです。でも図書室の本は、わたしが読み終わっても、次の人がまた読めるのです。……そこが、ずいぶんちがうところなのですよ。
まとめ:読ませてもらった本は、もう棚に戻ってこない。AIが賢くなるぶんだけ、世界の本棚が軽くなっていく。