AIが暗号の穴を発見。破る手間が6700万分の1に
Anthropicが、自社の未公開モデルと研究者の共同作業で電子署名方式HAWKの数学的な弱点を見つけたと発表。HAWK-256を破る手間は2の64乗から2の38乗に落ちた。ただし実運用のソフトに影響はない。
ひかり:ねぇ、部室のロッカーにダイヤル錠をつけるとするでしょっ? 4桁なら、最悪1万回まわせばいつか開いちゃうよねー。……じゃあさ、その"1万回"が急に"数回"になっちゃったら、それってもう鍵って呼べるのっ?
ことね:まさにその話が昨日出たのよ。Anthropicが、自社のAIと研究者の共同作業で、HAWKという電子署名の方式に、誰も気づいていなかった数学的な"対称性"を見つけたと発表したの。それを突くと鍵の実質的な長さが半分になる。HAWK-256なら、破る手間の見積もりが2の64乗から2の38乗まで落ちたのね。ただし、HAWKはまだどこにも使われていないの。量子コンピューターが来ても大丈夫な暗号を選ぶNISTの選考で、3次審査に残っている候補のひとつ。開発者には先月のうちに連絡が行っていて、公表はそのあと。
ひかり:えっ、2の64乗が2の38乗って……6700万分の1くらいっ!? そんなに削れて、まだ誰も使ってない暗号なんだっ。じゃあ何のためにー!
みずき:…で、いくらかかったの。それ。
ことね:……API代でおよそ10万ドル、1500万円くらいね。研究者ひとりが1週間つきっきりで、それがHAWKのぶん。もう一本、AESという世界中で使われている暗号の"7ラウンド版"への攻撃も出していて、こっちはほぼAIが自走したそうよ。人間が実のある指示を出したのは、3日で3回だけ。逆に、出てきた答えが本当に正しいか人間が検算するのに数百時間かかっているの。
ひかり:ことね先輩、その"7ラウンド版"って何ー? 7回まわすってことっ?
ことね:近いわ。AESは同じ混ぜる操作を10回くり返して守りを固めるの。研究では、わざと7回で止めた"練習台"を相手にするのね。今回のは従来の最速より200〜800倍速いのだけれど、成立させる条件が、狙ったとおりの暗号文を2の105乗個そろえること。会社の説明でも「まったく非現実的」ですって。
みずき:…1500万円払って、誰も困らない穴。しかも練習台のほう。で、それ誰得なの。……いや、わかるけど。この前の「AIの中身を配っていいか」って言い争い、あれと地続きの話でしょ、これ。
ことね:そう。見つけた穴じゃなくて、伸び方のほうを見せに来ているの。文章の締めがこうなのよ——「言語モデルの能力がこの水準で頭打ちになると考えるべきではない」。1年前は初歩の暗号すら解けなかったのだから、と。実際LEAという暗号の13ラウンド版では、必要な暗号文が2の98乗組から2の30乗未満まで減って、いまどきの家のパソコンで1時間かからず鍵が出るところまで来ている。……本物は24ラウンドあるから、まだ届かないけれど。
ひなた:ふぁ〜……体育で、跳び箱を7段までしか跳ばない日があるのです。先生は「今日はここまでね」って言うのですけど……8段を跳べる日が来るかどうかは、たぶん先生にもわからないのですよ。
まとめ:実害ゼロの穴に、API代1500万円。こわいのは開いた穴より、1年でここまで来た速さのほう。