200年以上前の骨と、失踪した義妹のDNAが一致
松下龍之介のデビュー作『一次元の挿し木』が、電子版を含め75万部を突破。ヒマラヤの湖から出た200年以上前の人骨のDNAが、4年前に失踪した義妹と完全に一致する——そこから始まる科学ミステリ。
ひかり:えっ待って待ってっ! 200年以上前に死んだ人の骨と、4年前にいなくなった義理の妹のDNAが、まるっきり同じだったのっ!? ……そんなことある!?
ことね:小説の話よ。松下龍之介さんの『一次元の挿し木』。去年の2月に宝島社文庫から出たデビュー作で、第23回『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ作品ね。……それが、電子版を含めて75万部を超えたそうなの。
みずき:…新人の、1冊目で。……しかも文庫。900円の。
ことね:そこが今回の記事の主題なの。宝島社は文庫で書き下ろすヒット作が多いところだけれど、評者も「新人のデビュー作としては異例とも言える売れ行きではないだろうか」と書いているわ。しかも発売直後に爆発したのではなく、じわじわ伸び続けてここまで来ているの。先月からは読売テレビ制作・日本テレビ系の日曜ドラマ枠でドラマも始まっているわ。主演は山田涼介さんね。
ひかり:ふんふん……で、中身どんな話なのっ? さっきのDNAのやつっ!
ことね:主人公は、大学院で遺伝人類学を学ぶ青年・七瀬悠。4年前の豪雨災害で行方がわからなくなった義妹の紫陽を、ずっと探し続けているの。そこへ、インドのヒマラヤにあるループクンド湖から掘り出された、200年以上前の人骨のDNA鑑定が持ち込まれるのよ。……結果が、その義妹と完全に一致する。
ひかり:ループクンド湖ぉ……なんか聞いたことあるような、ないような……。えっ、ことね先輩、その顔は何っ!?
ことね:よくぞ聞いてくれました。その湖、実在するの。しかも現実のほうが十分おかしいのよ。標高5000メートルほどの、通称「骸骨湖」。雪が解けると人骨が数百体ぶん現れる場所ね。2019年に、ハーバードやマックス・プランクなどの国際チームが38体の全ゲノムを調べた論文が出ていて、38人は三つの系統に分かれたの。23人は現代の南アジアの人たちの範囲、1人が東南アジア系に近くて、残る14人が——東地中海、いまのギリシャやクレタ島の人に近かった。年代測定でも西暦800年ごろの組と1800年ごろの組に割れていて、なぜヒマラヤの湖にその14人がいたのかは、いまだに説明がついていないの。
みずき:…現実のほうが先に謎で、小説はそのあと。……いちばん強い設定は、作者が考えたんじゃなくて、拾ってきたやつ。
ひなた:ふぁ〜……挿し木って、枝を切って土にさすと、おなじ木がもう一本ふえるやつなのです。……題名のところで、こっそり言われてる気がするのです。
まとめ:謎のほうは、作者の発明ではなかった。ヒマラヤの湖に沈んだ14人がなぜ東地中海の血筋なのかは、いまも説明がついていない。