AIが顕微鏡を回す規格、弱点は泡だった

Anthropicが、AIに顕微鏡やロボットアームを操作させる共通規格「Model Hardware Standard」を発表。数週間かかっていた機器のつなぎ込みが数時間に縮んだ一方、液体の泡には対処できず人が呼ばれた。

ひかり:顕微鏡、ロボットの腕、あとえっと……「液体を分ける機械」。ねえことね先輩、この求人みたいなの何? だれがこんなにバイト掛け持ちするのっ?

ことね:求人ではないのだけれど、掛け持ちするところは合っているわ。Anthropicが「Model Hardware Standard」——略してMHSという規格を出したの。AIが顕微鏡やロボットアーム、液体を小分けにしていく機械なんかを、ぜんぶ同じ言い方で動かせるようにする決まりごとね。いままでは機械ごとに専用の通訳を書いていたのよ。ある機械はMATLAB、隣はPython、その隣はC#、みたいにばらばらでね。ラボがひととおり繋ぎ終えるまで、ふつうは数週間から数か月かかっていたの。MHSはそこを「read——温度を読む」「write——温度を決める」くらいの、ごく単純な命令に揃えてしまうわけ。……ひかり、こないだ話したMCPを覚えている? あれはAIにソフトの道具を使わせる決まりごと。今度のは、その相手が机の上の実物になった版ね。……ただ、まだ研究の下見版で、先に選ばれた研究室と工場だけが使えるの。いずれオープンソースにする予定、とは言っているわ。

みずき:…で、どれくらい縮んだの。

ことね:カーネギーメロン大の例だと、薬の濃さを段階的に薄めていく実験の一式を、8時間で繋ぎ終えたそうよ。前は数週間かかっていたところをね。おもしろいのはその先で、1回目の結果が基準に届かないと見るや、AIが自分で「この皿は捨てて、新しいので取り直す」と決めたの。2回目はちゃんと通ったわ。

ひかり:えっ、やり直すかどうかまで自分で決めちゃうのっ!?

ことね:そこが今回いちばん人を驚かせたところね。量子コンピュータのQuEraという会社では、レーザーの調整をまるごと任せたの。人が書いた手順書どおりにやると成功率58%だったものが、AIが手順を「もし〜ならこっち」という枝分かれに組み直したら99.3%。立て直しにかかる時間も、簡単なものなら5〜10分から1秒〜5秒ほどまで縮んだの。しかも夜のあいだに12個のつまみを同時に回し続けて、残っていたノイズを15.7ミリボルトから1.55ミリボルトへ、ざっと10分の1に。おかげで19時間、一度も狙いを見失わなかったそうよ。人が調整したときは1時間に1.6回くらい外れていたのに——

みずき:…ことね先輩、止まって。……で、そこまでやる子は、何につまずいたの。うまくいった話だけ並ぶときは、たいてい続きがあるでしょ。

ことね:……よく分かっているわね。Genentechという製薬会社での話よ。液体を扱っている途中で、泡が出たの。人間なら「あ、勢いが強すぎた」と体で分かるでしょう。でもAIは、同じ皿の同じ場所で、条件だけ少し変えてもう一度やり直そうとしたのよ。当然もっとひどくなるわ。研究者が「もっとそっと扱いなさい」と教えて、ようやく直ったの。Anthropic自身も、物理や化学や生き物の「やってみないと分からない」ところはまだ苦手だ、と正直に書いているわ。

ひかり:えーっ! レーザーは19時間ぴったり合わせ続けられるのに、泡はダメなのっ!? そんなことある!?

みずき:…もっと笑えるのがあるの。同じQuEraで、AIが「これちょっと危ないかも」と思うたびに手を止めて、人間の確認を待っちゃうものだから、実験が朝まで止まってた日もあったって。……夜どおし働かせるつもりが、夜どおし待たれてたんだ。

まとめ:19時間レーザーを合わせ続けたAIが、泡ひとつで人を呼びにきた。体で分かることだけが、まだ引き継げていない。

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