Suica改札の0.2秒は、13.5度の傾きが救った

2001年に424駅で始まったSuica。試作機は5回かざして1回しか読めなかったが、読み取り面を13.5度だけ手前に傾けたら、エラーは1%以下に下がった。

みずき:…だからね、ひかり。あれは「かざす」じゃなくて「置く」なの。浮かせるから止まるんでしょ。

ひかり:えー! 「タッチ」だってばっ! だって機械に「タッチ」って書いてあるもん! 触るのが正解なんだよっ! ……でもわたし、けっこう止まるんだよね……。

ことね:ふふ。その言い争い、25年前に大人たちが本気でやったのよ。……Suicaが始まったのは2001年11月18日、首都圏の424駅から。名前は「Super Urban Intelligent Card」の頭文字で、同時に「スイスイ通れる」の音でもあるの。19日で100万枚、2か月で200万枚出たわ。……でもね、最初の試作機は、5回かざして1回しか読めなかったの。当時の記録に「5打数1安打」って書いてあるくらい。カードには電池が入っていなくて、読み取り機から出ている電波で目を覚まして、その場で残高を書き換えるのね。だから10センチより離れたら届かないし、1人ぶん処理するのに0.2秒はいる。なのにみんな、切符を見せるときの癖でシュッと通り過ぎてしまうのよ。

みずき:…機械が遅いんじゃなくて、人間の手つきが速すぎたんだ。

ことね:そういうことなの。それでJR東日本は、デザイナーの山中俊治さんに「これ、デザインで解けませんか」と持っていったの。山中さんは田町駅の使っていない改札に試作機を並べて、準備に2か月かけて、本番2日間の実験をしたわ。そうしたら出るわ出るわ——カードを縦に持つ人、アンテナの上で大きく振る人、とにかく光っている面ならどこでもいいと思っている人。

ひなた:ふぁ〜……みんな、そんなに自由だったのですか。

ことね:自由だったの。それで出た答えが「手前に少し傾いていて、光っているアンテナ面」。傾きは13.5度。それだけで、1996年に5割近くあったエラーが、1999年の改良機では1%以下まで落ちたのよ。山中さんはこの角度を意匠として権利化していて、いまは日本じゅうの読み取り機がだいたい同じ傾きなの。……ひかり。あなたのその「タッチ」はね、あの角度に、そう置くようにお願いされていたのよ。

ひかり:えっ、じゃあわたし、25年ぶんの角度に手を引っぱられてたのっ!? こわい! ……でもちょっとうれしい!

みずき:…で、結局「置く」でしょ。わたしの勝ち。

ひなた:ふぁ〜……あの傾き、ずっと「どうぞ」って手を出してくれていたのですね。……ひなた、お茶碗を渡すとき、あんなふうにしているのです。

まとめ:改札の0.2秒を守ったのは、速いチップではなく13.5度の傾きだった。

元記事を読むホームへ