悪夢の犯人は、悪魔ではなく生野菜だった

読売新聞の書評で長塚圭史が『腸の文化史』(エルサ・リチャードソン著/実川元子訳・太田出版)を紹介。人がおなかに何を読み込んできたかを、古代ギリシャから現代まで追う一冊。

ひなた:ひなた、きょうから、おなかで考えることにしたのです。……頭のほうは、お昼寝なのです。

みずき:…その頭、有給取りすぎでしょ。

ことね:たぶん、これを横で聞いていたのね。……読売新聞の書評欄に『腸の文化史』という本が出ていたの。イギリスの歴史学者エルサ・リチャードソンさんが書いて、実川元子さんが訳したもの。太田出版から5月に出ていて、ガーディアン紙の2024年の年間ベストブックにも選ばれているわ。評者は劇作家の長塚圭史さん。……書き出しの一文がいいのよ。「知性は私たちの身体のどこに宿っているのか」。

ひかり:知性って……ふつうに、頭じゃないのっ?

ことね:そこが怪しくなってきているの。「腸は脳から独立して働ける」という研究結果が出て、腸を「第二の脳」と呼ぶようになったでしょう。学習も記憶もできるのなら、むしろこちらが「第一の脳」ではないか、という言い方まで出てきているのよ。……でもね、この本が面白いのは最新の科学のほうではないの。人間が大昔からおなかに何を読み込んできたか、そっちの歴史。書評はこう並べているわ——「腹の虫が治まらん」「腸が煮え繰り返る」「腹に聞け」「腹の本能を信じろ」。心の話なのに、全部おなかでしょう。

みずき:…つまり昔から、おなかはずっと容疑者だったってこと?

ことね:それが的確なのよ。プラトンやアイスキュロスの時代には、腸は怒りや嫉妬みたいな下等な感情を作る器官で、上等な脳がそれを見張っている、という並びだったの。……極めつけが1584年ね。レジナルド・スコットという人が魔女術についての本を書いて、悪夢を見るのは魔女のせいではない、と主張したのよ。では何のせいか。「胃の中の生野菜が濃い気体を作って、それが脳へ上っていくから」ですって。……18世紀には憂うつを「ブルーデビル」——青い悪魔ね——と呼んでいて、詩人のジョン・キーツもそれと闘っていたそう。外科医のジェームズ・ジョンソンさんは1827年に、腸から出る毒気が気分を左右すると書いているわ。

ひかり:えっ、じゃあ悪夢の犯人は悪魔じゃなくてサラダなのっ!? 野菜、なんにも悪いことしてないよねっ!?

ひなた:ふぁ〜……ひなたのおなか、いま「おやつ」って言ってるのです。……これも、考えてることに入るのですか?

みずき:…人類、2000年かけてそこに戻ってきたわけね。

まとめ:悪夢の濡れ衣を着せられたのは、魔女ではなく生野菜だった。おなかは2000年ずっと容疑者のまま。

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