先延ばし研究の名論文、20人中18人が双子
「締め切りは小分けにしたほうが成績が上がる」を示した2002年の有名論文に、捏造の疑い。3つの課題すべてで成績がぴったり一致する参加者が、20人中18人いた。
みずき:…ひかり。その顔、まだ8月31日の顔してる。今日から9月なんだけど。
ひかり:うるさーいっ! 計画はちゃんと立てたもんっ! 宿題を3回に分けて、自分で締め切りも決めたのっ! ……そしたら3回ぜんぶ守れなかったのっ!
ことね:その話、いま学者の世界がざわついている件とそっくりなのよ。……「締め切りは自分で決めるより、外から均等に区切ってもらったほうが成績が上がる」。2002年にダン・アリエリーさんとクラウス・ヴェルテンブロッホさんが出した、引用2100回を超える有名な論文ね。授業でもよく引かれるの。その実験のデータに、捏造の疑いが出ているわ。
ひかり:えっ何それっ!? わたしの言い訳の元ネタが、いま崩れてるってことっ!?
ことね:指摘したのはData Coladaという、研究者3人が怪しいデータを検算しているブログ。おかしな点を4つ挙げているの。……まず、効果が大きすぎるのよ。差の大きさを表す数字が2.5。身長の男女差でも1.8くらいだから、それより離れていることになるわ。次が「双子」ね。締め切りを最終日にまとめた20人のうち18人に、3つの課題すべてで見つけた誤りの数がぴったり同じ相手がいたの。しかも整理番号が、きっちり10番違い。
みずき:…10番違いって。行をまとめてコピーして、下に貼ったでしょ。
ことね:残り2つは、数字の「つながり」と「クセ」の話。同じ人が似た作業を3回すれば、ふつう成績はある程度そろうのに、元データではほとんど無関係だったの。今年やり直した再現実験のほうは、きれいにそろっているわ。……それと自己申告の作業時間ね。人は「だいたい30分」みたいにキリのいい数字を書くもので、再現実験では85%がそう。ところが元データは11.7%しかないの。人間くさいクセが、まるで無いのよ。
ひなた:ふぁ〜……ひなた、おやつを半分こするとき、きっちり同じ大きさにすると「わざとだ」って言われるのです。……ちょうどよくバラバラって、けっこう難しいのですねえ。
ことね:その難しさに引っかかった、という見立てね。……今年出た再現実験——ハインドマンさんとビシンさんのもの——では、元の結果は再現しなかったわ。アリエリーさんは「深刻な異常がある」と認めたうえで、20年以上前のことで手元の記録も記憶も足りない、と説明しているの。ヴェルテンブロッホさんのほうは「自分はデータに触っていない」として撤回を求めていて、学術誌が手続きを進めているところ。……アリエリーさんは以前にも、「書類の上のほうに署名させると正直になる」という有名な実験で捏造を指摘されていて、そちらの論文はもう撤回されているわ。
みずき:…先延ばしをやめる方法を教えてくれた論文の答え合わせが、24年ぶん先延ばしされてた。それだけの話でしょ。
まとめ:「締め切りは小分けに」を教えてくれた論文が、いま撤回の手続きに入っている。ひかりの宿題は、それとは関係なく終わっていない。