33年前の名作が、新しい顔で棚に戻る
東京創元社が、創元推理文庫の名作をカバーだけ新しくして出し直す新装版シリーズを始めた。第1弾はドン・ウィンズロウのデビュー作『ストリート・キッズ』で、8月12日発売。以降も毎月続く。
みずき:…お金の使いかたを間違えた気がする。これ、そこの棚に刺さってるのと同じ本なのに、いま新品で買ってきた。
ことね:カバーが違うでしょう。それ、先月出た新装版よ。東京創元社が8月から、創元推理文庫の名作を新しいカバーで出し直す企画を始めたの。第1弾がそれ——ドン・ウィンズロウの『ストリート・キッズ』ね。中身は同じ。訳も東江一紀さんのまま。変わったのは装いだけで、装画が原田俊二さん、装幀が鈴木久美さんよ。
みずき:…で、それ誰得なの。中身がひと文字も変わらないのに1870円。わたし、絵に金を払ったってこと?
ことね:そこはね、書店の棚を思い出してほしいの。創元推理文庫は1959年創刊で、日本で初めてのミステリ専門文庫。『ストリート・キッズ』の日本での初版は1993年11月なのよ。33年前の本。……本って、売れなくなるより先に「置かれなくなる」の。棚から消えた本は、存在していても無いのと同じでしょう。新装版は、その本をもう一度、新刊の平台に戻す手なの。
ひなた:ふぁ〜……どんなお話なのですか? 題名からすると、こどもがいっぱい出てくるのです?
ことね:出てくるのはひとりね。1976年5月、副大統領候補に推されそうな上院議員が、行方不明になった娘を捜してほしいと頼んでくるの。締切は8月の党大会まで。引き受けるのが、元ストリート・キッド——路上で育った青年ニール・ケアリー。ウィンズロウさんのデビュー作で、彼のシリーズ第1作よ。師匠と「父さん」「坊主」と呼び合っていてね、そこがこの本のいちばん好かれているところなの。アメリカの新人賞に二つ候補入りして、日本ではマルタの鷹協会のファルコン賞を取っているわ。
ひなた:ふぁ〜、「坊主」って呼ばれるの、いいのです。ひなたも呼ばれたいのです。
みずき:…待って。人捜しの締切が、党大会。娘が見つかるかどうかより、選挙の日程が先に決まってるってことでしょ。……そこは、ちょっといい。
ことね:刺さったようで何より。しかもこれ、毎月続くのよ。今月が相沢沙呼さんの『卯月の雪のレター・レター』、10月に飛鳥部勝則さんの『殉教カテリナ車輪』と泡坂妻夫さんの『亜愛一郎の狼狽』、11月が道尾秀介さんの『シャドウ』、12月が若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』。……みずき、財布は大丈夫?
ひなた:ふぁ〜……本にも、衣替えがあるのですね。……ひなた、まだ夏服なのです。
まとめ:中身は33年前とひと文字も違わない。新しくしたのは、棚で目が合うかどうかだけ。