先攻決めで絶対に引き分けないサイコロ、60面
ボードゲームの先攻を引き分けなしで決める「Go First Dice」に、5人用の完全な答えが出た。60面のサイコロ5個に1〜300を配る形で、カナダのポール・マイヤーさんが見つけた。
ことね:結論から言うわね。ふつうの6面のサイコロでは、5人の先攻を引き分けなしで、しかも完全に公平に決めることは、絶対にできないの。好みや工夫の問題ではなくて、できないと証明されているのよ。
ひかり:えっ何それ気になるっ! ……ていうかことね先輩、部室に入って一言目がそれっ!? そもそもなんでサイコロで先攻を決める話をしてるのーっ!?
ことね:ボードゲームの世界に、ずっと有名な宿題があるのよ。2010年の夏、Cheapass Gamesというゲーム会社を作ったジェームズ・アーネストさんが、知り合いのエリック・ハーシュバーガーさんに持ちかけたの。「みんなが1個ずつサイコロを振るだけで順番が決まる、そんなセットは作れないか」って。条件は三つ。ひとつ、引き分けは絶対に出ない。ふたつ、誰が1位になる確率も等しい。みっつ、何人で振っても成り立つ。……じつは最初の条件だけなら簡単なの。セット全体で同じ数字を二度使わなければいいだけ。6面を8個なら、48ある面に1から48を一回ずつ配る。それで引き分けは消えるわ。
みずき:…じゃあ終わりでしょ。何がそんなに難しいの。
ことね:残りの二つが刺さるのよ。……5人が6面を1個ずつ振ると、出方は全部で6の5乗、7776通り。5人が完全に公平になるには、この7776を5でぴったり割れないといけないの。でも6は2かける3でできていて、どこにも5が入っていない。6を何回かけたところで、5では割り切れないのよ。だから6面のサイコロをいくつ並べても、5人ぶんだけは永久に無理。
ひかり:そんなことある!? ……えっ、じゃあ何面ならいいのっ? 100面とかっ!?
ひなた:ふぁ〜……あの、引き分けが出ちゃったら、その人たちだけでもう一回振れば、いいのではないのですか……?
ことね:ひなたの言うとおりよ。ハーシュバーガーさん自身、自分のページに「これは問題のほうを探している解答だ」と書いているの。先攻の決めかたなんて、ほかにいくらでもある、と。……そのうえで、数学の問題としては面白すぎたのね。ひかりの質問の答えは「12面」。相談から数週間後の9月、幼なじみの数学者ロバート・フォードさんが、手計算で12面4個の並べかたを見つけたのよ。48ある面に1から48を配る形ね。しかもこれ、1位になる確率が等しいどころか、4人の並び順24通りが全部同じ確率で出るという、いちばん強い公平さだったの。2012年から実際に彫って売られているわ。……ただ、そこから「5人ぶんは?」と聞かれ続けて13年。答えが届いたのは2023年、カナダのポール・マイヤーさんからのメール。60面のサイコロを5個、300ある面に1から300を配る。それがいま、ようやく買えるようになったのよ。
みずき:…60面。それ、振ったあといつまでも転がってるやつでしょ。順番を決める前に、サイコロが止まるのを待つことになる。……しかもハーシュバーガーさん、大学の校舎に、松とウォルナットとマホガニーで1メートルくらいの木のサイコロを5個作ったらしいよ。1個に1か月。……誰が振るの、それ。
ひなた:ふぁ〜……でも、じゃんけんであいこになって、みんなの「もう一回!」がそろう瞬間……わたし、あれ、けっこうすきなのです。
まとめ:13年と、60面が5個。それだけ費やして消えたのは、「じゃあもう一回」の一言ぶんだった。