机くらいのサソリが、森より先にいた

1871年に「巨大なダンゴムシの仲間」として記載され、正体で長く揉めてきた英国の化石が、体長約1メートルのサソリと確認された。4億1500万年前、まだ森も無い陸にいた。

ひかり:ことね先輩ーっ! ちょっとこの机、測らせてっ! ……えーっと、たて98センチ。……うわっ、ほぼぴったりだよっ!

ことね:ひかり、主語が抜けているわ。……何が、その机とぴったりなの?

ひかり:サソリっ! 体長1メートルのサソリが、大昔のイギリスにいたんだってっ! つまりこの机、まるごとサソリなのっ!

ことね:……ああ、その論文なら読んだわ。Praearcturus gigas——プラエアルクトゥルス・ギガス。化石そのものは、ずいぶん昔から知られているのよ。1871年に記載されたときは「巨大なダンゴムシの仲間」とされていたの。尻尾のような、決め手になる部分が欠けていたから。1980年代に「いや、これは巨大なサソリだ」という説が出たのだけれど、図がろくに載っていなくて、近年また異議が出ていたわ。それを今回、ロンドン自然史博物館のリチャード・ハワードさんたちが、150年ぶんの標本を並べ直して決着させたの。サソリで確定。体長およそ1メートル、はさみは16センチを超えるわ。

ひなた:ふぁ〜……1メートルのエビフライみたいなのです。……しっぽまで入れて1メートルなら、たぶん4人ぶんなのです。

ひかり:ひなた、食べる前提で考えるのやめてっ! ……ねえ、そのサソリって恐竜と戦ってたのっ!?

ことね:恐竜はまだ1億8000万年くらい先ね。この子がいたのは4億1500万年前、デボン紀の前期よ。イングランドとウェールズの、川がつくった氾濫原ね。……そして、ここがいちばん面白いところなの。当時の陸には、まだ森が無いのよ。小さな植物とキノコが、ようやく地面を覆いはじめたばかり。そんな小さいものだらけの世界が、なぜか机サイズの捕食者を養えていた——共著者でマンチェスター大学のラッセル・ガーウッドさんは、そこに驚いているわ。陸で「大きな狩る側」という役どころを、いちばん最初に埋めたのがこのサソリかもしれない、と。

ひかり:えっ、じゃあ何を食べてたのー? まわりが小さいのばっかりなのにっ?

ことね:そこはまだ分かっていないの。そもそも当時は陸と水の境目が今ほどはっきりしていなくて、半分は水の中で暮らしていたのではないか、とも書かれているわ。……あと、この決着でひとつ名前が消えたのよ。Brontoscorpio anglicus——「イングランドの雷サソリ」。巨大サソリの代名詞みたいな学名だったのだけれど、同じ種だと判定されて、Praearcturus gigasに吸収されたの。

ひなた:ふぁ〜……かっこいいほうの名前が、負けちゃったのですね。

まとめ:森より先に、机サイズの狩る側がいた。155年かけて、巨大なダンゴムシはサソリに戻った。

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