古びないように、固有名詞を捨てた1001編

ショートショートの星新一が9月6日で生誕100年。時事や固有名詞を避け、出したあとの作品も晩年まで直し続けた1001編は、いまも新刊の棚に並んでいる。

ひかり:ねえみずきっ、これちょっと読んでみてっ。……で、この話、いつ書かれたと思う?

みずき:…ロボットは出てくるのに、スマホは出てこない。地名も人名も出てこない。会社の名前すら出てこない。……最近の人が、わざと古くさく書いたやつでしょ。

ひなた:ふぁ〜……あの、みずき先輩。それ、昭和なのです。……ひかり先輩がうしろで「正解は昭和」って書いた紙を持って、そわそわしているのです。

ことね:ひかり、答えを背負って立たないの。……その文章、星新一ね。ちょうど今日なのよ。1926年9月6日生まれだから、今日で生誕100年。生まれたのは大正15年で、その年の暮れに昭和になっているの。ショートショート——原稿用紙で数枚、短いのに落ちまでつく小説ね——を1001編書いた人よ。1983年の秋にその1001編に到達して、そこでほとんど書き終えているわ。

ひかり:ねえことね先輩、そこがふしぎなのっ。40年以上前なんでしょっ? なんで読んでも古く見えないのー?

ことね:そこが仕掛けなのよ。星新一は、古びる材料をはじめから持ち込まなかったの。時事や流行は書かない。地名も人名もほとんど出さない。「100万円」とは書かずに「大金」と書く。登場人物は「エヌ氏」——アルファベットのNだと日本語の文の中で目立ちすぎるから、わざとカタカナにしたそうよ。……それどころか、出したあとの作品も直し続けたの。「ダイヤルを回す」みたいな言い回しが古くなるたびに、晩年まで書き換えていたわ。

ひかり:えっ、待って待ってっ! いま本の解説のとこ見たんだけどっ、その人、疑問符と感嘆符も原則は使わない主義だったって書いてあるよっ!? ……わたし、1文につき3個は入れてるんだけどー!

ことね:ええ、原則は使わない方針だったそうよ。……ひかりの発言、文字数が半分になるわね。記念の企画もいろいろ出ているの。新潮社から、単行本未収録のエッセイとショートショート4編を集めた『きまぐれカプセル』。SFマガジンの10月号は生誕100年の特集。角川つばさ文庫と角川文庫は9月下旬から記念の帯を巻くそうよ。世田谷文学館では9月12日に「ホシヅルの日2026」——次女の星マリナさんが出て、未発表作の朗読もあるわ。ホシヅルというのは、星さんが「未来で鶴が進化したらこうなる」と考えて描いた生きものでね。サインの代わりに、これを描いていたの。

みずき:…その人の名前がついた賞、いま募集要項にこう書いてあるの。「人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます。ただしその場合は、連絡可能な保護者、もしくは代理人を立ててください」。先月ここで話した、受賞4作のうち3作にAI使用の疑いがあったっていう、あの賞。……固有名詞を全部消した人の名前だけが、いま応募要項にでかでかと残ってる。

ひなた:ふぁ〜……100年たっても、まだ帯を巻いてもらえるのです。……ひなたのお弁当は、3時間でぬるくなるのです。

まとめ:古びる材料を、書く前に全部よけておいた。おかげで100年後の部室で、誰も「いつ書かれたか」を当てられない。

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