魔法用品店のサポート記録が、SFの賞を取った

第84回世界SF大会でヒューゴー賞が発表された。今年かぎりの特別部門「詩」に選ばれたのは、魔法用品店のAI窓口と魔女のやりとりを全編韻文で書いた作品。長編賞はアリックス・E・ハロウ「The Everlasting」。

ひかり:ねえねえ聞いてっ! SFの世界でいちばんえらい賞でね、今年の詩の部門で優勝した作品のタイトルがこれっ——「ヘックス用品店 カスタマーサポート記録」! ……問い合わせの記録がっ、賞を取ったのーっ!

ことね:まあ落ち着いて。順番に整理しましょう。ヒューゴー賞ね。SFとファンタジーでいちばん歴史のある賞よ。特徴は選び方で、専門の審査員じゃなくて、世界SF大会——ワールドコンの参加者が投票して決めるの。今年は第84回、アメリカのアナハイムで開かれて、発表は8月30日。最終投票は2492票だったわ。……そのうち2票が、紙で届いたそうよ。

みずき:…電子が2490で、紙が2。……その2人のほうが気になる。で、そもそもSFの賞に詩の部門なんてあったっけ。

ことね:いいところを突くわね。正確には、今年かぎりの部門なの。ヒューゴー賞のルールでは、その年の大会が自分の判断で部門をひとつ足していいことになっていてね。今年のアナハイム大会は去年の12月に、その枠を「詩」に使うと発表したの。前の年のシアトル大会も同じことをしていて、いま常設の部門に格上げする提案が総会の承認にかかっているところよ。……で、受賞作なのだけれど。魔女がお店にクレームを入れる話なの。それが全部、韻を踏んだ形で書かれているの。

ひかり:えっ、クレームを詩でっ!? 落ち着いてる場合じゃなくないっ!? なんでそんなことにーっ!

ことね:そこが仕掛けなの。作中の魔女は、昔ある王様にかけられた呪いのせいで、韻文でしか話せないのよ。怒っていても詩になってしまうの。……相手をするのは、ルーンという名前のサポート担当。やりとりの途中で、それが魔女じゃなくてAIだと客のほうが気づいて、いっきに空気が変わるわ。作者はエリス・モンゴメリー。Strange Horizonsという、誰でもただで読めるウェブ雑誌の去年8月の号に載ったものよ。

みずき:…AIの問い合わせ窓口に詩で怒鳴り込む話が、詩の部門で1位。……この1年でいちばん票を集めた詩が、それってことでしょ。世相、出すぎ。

ひなた:ふぁ〜……あの。ひなた、ほかの部門も見たのです。……短編よりちょっと長い部門の1位が、「Never Eaten Vegetables」。……野菜を、食べたことがない。……ひなた、その人と一度おはなししてみたいのです。

ことね:H・H・パクさんの作品ね。ほかもざっと言うと、長編賞がアリックス・E・ハロウの「The Everlasting」。中長編賞はアマル・エル=モーターの「The River Has Roots」で、これはネビュラ賞とローカス賞をすでに取っているから、三つめの主要な賞になるわ。彼女は共作の「This Is How You Lose the Time War」でも、2020年に同じ部門を取っているのよ。シリーズ賞はジョン・スコルジーの「老人と宇宙」シリーズ、第1作は2005年よ。ドラマの短い部門は「マーダーボット」。……そしてゲーム部門が「クレール・オブスキュール:Expedition 33」。

みずき:…そのゲーム、作ってるのフランスの30人ちょっとの会社だよ。小島秀夫が「33人と犬1匹。それが理想のチームサイズ」って褒めてた。……今年のリスト、並べると変だよ。魔法用品店の問い合わせ記録と、30人が作ったゲームと、20年前に始まったシリーズ。SFの賞って、こんなに雑食だったっけ。

まとめ:今年いちばん票を集めた詩は、AI窓口への問い合わせだった。しかもその部門、今年かぎりで消えるかもしれない。

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