オランダの金塊86トンが、ニューヨークを出た

オランダ中銀が3月から8月にかけて、ニューヨーク連銀とカナダ中銀に預けていた金86トンをロンドンへ移した。フランスも昨年、ニューヨークに残していた129トンを引き払っている。

ひなた:あの、ことね先輩。……お友だちのおうちに置いてきたゲームを、そろそろ返してほしいと言うのは、けっこう勇気がいるのです。

ことね:……ひなた、それ、いまヨーロッパの中央銀行がまとめてやっていることの説明として、かなり正確なのよ。オランダの中央銀行が、この3月から8月にかけて、金の延べ棒を86トン、ニューヨーク連銀とカナダ中銀からロンドンのイングランド銀行に移したの。オランダの金は全部で612.4トン、2025年の評価で722億ユーロ。そのうちアメリカとカナダに預けていたぶんが313トンだから、その4分の1強が動いた計算になるわ。

ひかり:えっ待って待ってっ! 国の金塊って、その国の地下にドーンって積んであるんじゃないのっ!? なんでよそんちにあるのーっ!?

ことね:そこが面白いところなの。ニューヨーク連邦準備銀行の地下、マンハッタンの岩盤の中に金庫があってね、延べ棒がざっと50万本、6300トンあまり。その大半はアメリカのものではないの。36ほどの外国の中央銀行や政府、国際機関から預かっているものなのよ。理由は2つあってね。ひとつは冷戦の名残で、自分の国が戦場になっても取られない場所に置いておく、という発想。もうひとつはもっと実利的で、ロンドンは世界でいちばん厚みのある金の市場だから、そこに置いてある金は売るのも貸すのも数時間で片がつくの。船を出さなくていいのよ。

みずき:…その理屈だと、今回もたいして運んでないよね。実際に船に載せたのは27トンで、それもいったんオランダの自国金庫に入れてる。残りの59トンは、ニューヨークで売ってロンドンで買い直しただけでしょ。……引っ越しっていうより、口座の付け替え。

ことね:そのとおりよ。延べ棒は規格が決まっているから、同じ量が同じ場所にあれば中身は問わないの。運賃も保険も護衛も要らないぶん、そのほうが安く済むのよ。……同じことをフランスもやっているわ。去年、ニューヨークに残していた129トンを売って、パリにある金と入れ替えたの。差益が110億ユーロ。フランス銀行の総裁は、政治的な意図はないと説明しているけれど。

みずき:…政治的な意図がないなら、わざわざ言わなくていいと思う。

ひかり:でもさーっ、なんでみんな急に引き取りはじめたのっ? ずーっとそこに置いといたんでしょっ?

ことね:……きっかけとして必ず挙がるのが、2022年にロシアの外貨準備が凍結された件ね。よその国に預けてある資産は、預かっている側の判断で止められる。それが実例として残ってしまったのよ。ドイツは2013年から2017年に674トンを持ち帰っていて、今年1月には残る1236トンも戻せという声が経済学者から出ているわ。トルコは2018年にニューヨーク分を全部引き払っている。世界金評議会の今年6月の調査だと、ニューヨーク連銀に金を置いている中央銀行は14%。前の年は17%だったの。……オランダの総裁は、使うことは決してないと思うが備えは強くしておく必要がある、と言っているわ。

ひなた:ふぁ〜……あの。……ひなたも、今度ちゃんと返してって言ってみるのです。……ゲームは、金塊よりは軽いのです。

まとめ:金庫を移した理由は「危機のときいちばん早く出せるから」。……その条件を満たす場所が、去年と変わった。

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