盗まれたんじゃなくて、付け替えられた

札幌市の公園54か所で、公衆トイレの蛍光灯148本が誰かの手で無断でLEDに替えられていた。市は火災のおそれがあるとして全部を蛍光灯に戻し、心当たりのある人に名乗り出るよう呼びかけている。

ひかり:札幌に怪盗が出たらしいんだけどっ! ……あのねっ、盗ってくほうじゃなくて、置いてくほうっ!

みずき:…置いてくなら怪盗じゃない。ただの親切な人。……で、何置いてったの。

ひかり:LEDっ! 公園のトイレの蛍光灯がね、いつのまにかピカーッて明るいやつに替わってたのっ。それが148本っ!

ことね:正確には、札幌市内の公園54か所ね。白石・豊平・清田・厚別のあたり。……去年の9月ごろ、トイレの清掃をしている業者さんが「ここ、蛍光灯じゃなくなってますよ」と市に知らせたの。それで市が公園を片っ端から見て回ったら、合計148本。誰が替えたのかは、いまも分かっていないのよ。

ひかり:えーっ、いい人じゃんっ! 街が明るくなったんでしょっ? ……あれっ、でもことね先輩、なんで市の人そんなに困ってるのー?

ことね:困っているのよ。市はそのLEDを全部外して、わざわざ蛍光灯に戻したの。……理由は火事。蛍光灯の器具って、中に安定器という部品が入っているの。管に流れる電気を加減する係ね。LEDの管はその係を必要としないから、器具はそのままで管だけ差し替えると、行き場のなくなった安定器に電気が流れ続けて熱を持つことがあるのよ。……おまけに今回は、屋内用の器具が屋外のトイレに付いていたとも報じられているわ。雨と風にさらされる場所に、屋内用はそもそも向かないの。

みずき:…で、市のほうも、どうせいずれLEDにするつもりだったんでしょ。

ことね:そう、今年から本格的に器具ごと更新していく計画だったそうよ。……そもそも蛍光灯という道具自体がもう終わるの。水銀に関する水俣条約で、一般照明用の蛍光ランプは2027年末までに製造と輸出入を禁止すると決まっているのよ。使ってはいけなくなるわけではないけれど、新しいものはもう作られなくなるの。……つまりゴールは同じ。あの人だけ、列に並ばずに先へ行ってしまったのね。市は警察にも相談して、情報提供を求める張り紙まで出したのだけれど、まだ名乗り出ていないの。コメントがね、困り具合がにじんでいていいのよ。「良かれと思ってのことかもしれないが、事前に相談してほしい」。

みずき:…この前やった、救急隊の人の話と同じ形だ。玄関の靴をそろえてあげたら、かえって邪魔だったってやつ。……良かれと思ってやったことって、たいてい相手の手順を一個踏み倒してる。

ひなた:ふぁ〜……あの。ひなた、その人がなんで替えたのか、ちょっと分かる気がするのです。……夜の公園のトイレって、電気がチカチカしていて、こわいのです。……こわいのを直してくれた人が、まだ誰にもありがとうって言われていないのは、さみしいのです。

まとめ:148本ぶんの親切を、市は148本ぶんの工事で元に戻した。犯人はまだ、ありがとうも言われていない。

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