光が時速5キロの公園では、早歩きで未来へ行ける
光の速さを早歩きと同じ時速5キロに落とした、特殊相対性理論のシミュレーター「Relativity Park」がHacker Newsで話題に。少し歩くだけで、景色の色や形、時計の進み方が変わっていく。
ひかり:みんな聞いてっ! わたし、さっき未来に行ってきたのっ! 部室のパソコンの中の公園を1分お散歩しただけなのに、戻ってきたら世界の時計が2分すぎてたのっ!
みずき:…1分だけ遊ぶって言って、2分やってただけでしょ。
ことね:いいえ、みずき。それは本当に起きたことなのよ。……少なくとも、あの公園の中ではね。「Relativity Park」——昨日Hacker Newsに「光の速さが時速5キロだったら?」という題で出て、500ポイントを超えていたわ。作ったのはドミトリー・ブラントさんで、ブラウザで歩き回れる特殊相対性理論のシミュレーターよ。仕掛けはひとつだけ。光の速さを、時速5キロ——早歩きの速さまで落としてあるの。本物の光は秒速30万キロもあるから、ふだんの暮らしで相対論の効果に気づくことは、まずないでしょう? 本人も「光の速さを人間の速さまで縮めて、相対論の効果を身の回りの物で感じ取れる可視化を、ずっと作りたかった」と書いているわ。……発想そのものは古くてね。1940年に物理学者のジョージ・ガモフが出した『不思議の国のトムキンス』では、銀行員のトムキンスさんが夢の中で、光が自転車くらいの速さしかない町に迷いこんで、自転車に乗った人がぺちゃんこに縮んで見えるの。2012年にはMITのゲームラボが、光がだんだん遅くなっていく『A Slower Speed of Light』を無料で出していて、今回のコメント欄でも名前が挙がっていたわ。
ひかり:えっ、ほんとなのっ!? じゃあじゃあ、前に歩くと景色が青っぽくなって、振り返ると赤っぽくなるのもっ!? 街灯のチカチカが、近づくと速くなるのもっ!?
ことね:ぜんぶ本当に起きることよ。まず時計。光の速さに近づくほど、動いている側の時間はゆっくり進むの。画面の端に「あなたの時計」と「世界の時計」が並んでいて、その差がそのまま見えるわ。時速4.5キロ——光の9割で歩くと、世界の時計はひかりの2.3倍くらいの速さで進むのよ。色のほうはドップラー効果ね。救急車のサイレンは、近づくと高く、遠ざかると低く聞こえるでしょう? 光でも同じことが起きて、向かっていく前の景色は青いほうへ、背中側は赤いほうへずれるの。街灯は世界の時間で1秒に1回ずつ光る作りだから、その点滅の速さがそのまま速度計になるわけ。前へ進むほど視界がぎゅっと前に寄ってきて、まっすぐな柱の回廊がトンネルみたいに見えてくるわ。……それと大事なのが、この公園では、見えている物がぜんぶ「光がそこを出た瞬間」の姿だということ。光が早歩きだから、何メートルか先を見るだけで、何秒か前の姿になるのよ。
みずき:…じゃあ、ひかりはほんとに、1分ちょっと先の世界に来てたんだ。……でも遅刻の言い訳には使えないよ。遅れてるのは、ひかりの時計のほうだから。
ひかり:えーっ、そんなぁっ! ……じゃあ観覧車はっ!? てっぺんのゴンドラと下のゴンドラで、見え方がぜんぜん違ったんだけどっ!
ことね:観覧車とメリーゴーラウンドは、どちらも光の75%で回っているの。ゴンドラは自分の速さで進む向きに縮んでいて、しかも一周のあちこちから届く光は、出発した時刻がばらばら。縮んだ物を光の遅れごしに見ると、回ったように見えるのよ。テレル回転というのだけれど、本当は回ってなんかいないの。……それに観覧車は、回廊に横腹を向けて置いてあるわ。ひかりが光の75%で回廊を走ると、てっぺんのゴンドラは同じ向きに動いているからほとんど止まって見えて、いちばん下のゴンドラは逆向きに、光の96%ですれ違う。75%と75%を足しても150%にはならなくて、96%。光を追い越さないように、速さの足し算のしかたが変わるの。……ちなみに作者は「正確でないところ」もきちんと書いていてね。そんな速さで回る観覧車はばらばらに飛び散るし、空気の中を光に近い速さで進めば一瞬で蒸発する。星と星のあいだの宇宙でも、宇宙に満ちている弱いマイクロ波が青いほうへずれてガンマ線になって、焼かれてしまうそうよ。
みずき:…遊園地の注意書きで、いちばん物騒な「乗れません」。
ひなた:ふぁ〜……あの。この公園だと、むこうのはしにいることね先輩は、何秒か前のことね先輩なのですね。……ほんとうの部室でも、ひなたが見ているのは、ほんのちょっとだけ前のことね先輩なのです。
まとめ:光を時速5キロにすると、75%と75%を足して96%になる公園ができる。観覧車には、乗らないほうがいい。