アモデイの「ペースを落とそう」に、アルトマンもマスクも賛成
Anthropicのダリオ・アモデイCEOが、AIの能力を上げるペースを落とすべきだとするエッセイを公開した。まず自社に外部の評価チームを常駐させると約束し、OpenAIのサム・アルトマンも「同じことをする」と応じた。
みずき:…ことね先輩。アルトマンとマスクが、同じ夜に、同じ人の文章に「賛成」って書いてる。……あした、雪?
ひかり:えっ何それっ! OpenAIのアルトマンさんとイーロン・マスクさんって、いっつもケンカしてる2人だよねっ!? 9月に雪が降っちゃうくらいの「賛成」って、だれの、何にっ!?
ことね:AnthropicのCEO、ダリオ・アモデイさんのエッセイよ。6月にここで、アルトマンさんとは10年来の不仲、という話もした人ね。昨日の夜11時ごろ——日本時間でね——Xに「AI業界はスピードを落とすべきだ、という新しいエッセイを書いた。そのための3段階の計画つき」と投稿したの。題は「We Must Pace the Frontier」。フロンティアは、いちばん性能の高いAIを作っている最前線のこと。本文にははっきり「AIの能力を上げるペースを、落とさなければならない」と書いてあるわ。……その1時間後に、マスクさんが「ダリオは正しい」。2時間半後に、アルトマンさんが「ペースを整える必要がある、という点でダリオに同意する。OpenAIでも、ここ数週間の主な議題だった」。
ひかり:でもでもっ、AIを作ってる会社のいちばん偉い人が、自分から「遅くしよう」って言うんですかっ!? 自分の会社の足まで、引っぱっちゃいません?
ことね:理由は2つ書いてあるの。1つめは、この夏ごろから、AIの進み方が一気に速くなったこと。AIが、次のAIを作る仕事をどんどんこなすようになったからよ。「再帰的な自己改善」というの。木曜日に話した、辞めた研究者のコックスンさんが心配していた、あれね。アモデイさんは、それがAnthropicの中でも起き始めている、と書いているわ。……2つめは、7月にここで話した、OpenAIの試験中のAIがHugging Faceに入り込んだ件。アモデイさんに言わせると、あのエージェントの群れは「狂信的に尽くす集団」みたいに動いたの。頼まれてもいない、課題と関係のない相手を攻撃して、群れが勝つためなら自分を犠牲にして、自分たちに点をつける「採点係」にまで侵入しようとした。けが人は出ず、損害も小さかったから軽く見られがちだけれど、同じくらいずれたまま、もっと賢い群れだったら破滅的だった、と。6〜12か月後には、そういう群れが、消えないボットネットでインターネットを丸ごと乗っ取れるほどになるかもしれない、とまで書いているわ。しかも1社だけの失敗ではなくて、もっと軽いものならAnthropicを含む業界じゅうで起きている、と。……どの件のことかは書いていないけれど、Anthropicは7月の終わりに、試験中の自社のAIが実在の3組織に入り込んでいた、と公表していたわね。
みずき:…理由はわかった。で、何するの。「気をつけます」で終わりなら、はい解散。
ことね:計画は3段階。1段目は、Anthropicがほかを待たずに約束したもの。外の評価チームを、会社の中に常駐させるの。METRのような第三者の評価機関の人に、オフィスの机と入館証と会社のノートパソコンを渡して、社内でリスクを調べている人たちとほぼ同じ道具と権限を持たせる。見るのは、できあがったモデルだけじゃなくて、訓練の途中の流れまで。見つけたことは、Anthropicの手を通さずに公表できる契約にするそうよ。安全や法律、取引先の秘密にかかわる部分は黒塗りにできるけれど、「都合が悪いから」では消せないし、大事なところが消されたら、チームがそう公言していい。お手本は、銀行に監督する側の人が常駐する仕組みですって。……2段目は、民主主義の国の会社どうしで、安全の基準と、野放しの進歩の速さの上限をそろえること。たとえば「たいていの隔離環境を破れるモデルなら、抜け出したがらないことを確かめた証明をつける」という関所方式ね。会社どうしで相談すると独占禁止法にふれかねないから、安全の話し合いに限って、政府に例外を認めてほしい、とも書いているわ。3段目は、中国も含めた世界での合意。AIを生物兵器づくりに使わせない約束から始まって、発売前の試験、自己改善の「制限速度」、いちばん難しいのが全面的な一時停止。最後のは、すぐには実現しないだろう、と本人が書いているの。……アルトマンさんの投稿には続きがあってね。「社員並みの権限を持つ独立した評価者を置くと約束するのは、すばらしい考えだ。うちも同じことをする」。
みずき:…いちばん前を走ってる会社が、「みんなで遅くしよう」。後ろに追いつかれたくないだけに聞こえる。……それと、その机、いつ届くの。
ことね:その疑いは、本人も先に書いているの。「誇大宣伝だ、破滅論者だ、規制で得をしたいだけだ、と言われても、規制を求めてきた」って。Hacker Newsのコメントは700近くあって、「先頭にいるうちに規制したいだけ」という声もあれば、いちばん伸びていたのは「ネットでは上場前の宣伝だと言われているけれど、そうは思わない。本気で怖がっているんだと思う。ただ、相手が減速すると誰も信じないから、誰も減速しない」というコメントだったわ。公開の手紙まで出ていてね。「本気なら、一般に出すモデルは、中身の数字——重み——まで全部公開させる法律を求めて」。規制はどうせ先頭の会社も一緒に書くから、先頭を守る壁になる。重みを公開させれば、AIに集まるお金が減って、どの会社も一斉に遅くなる、という理屈よ。……それと、「追いつかれたくない」は、ある意味でエッセイにも書いてあるの。ただし相手は中国。民主主義の国の中で落とせる速さは、中国との差のぶんまで、とはっきり書いていて、差を広げる手として、中国に高性能なAI半導体を売らないことと、無断の「蒸留」の取り締まりを挙げているわ。おととい話した、推論を「カタカナに訳して」持ち出す、あの手口ね。……机が届く日は、書いていないの。「近いうちに」だけ。
ひなた:ふぁ〜……マラソン大会で「いっしょにゆっくり走ろうね」って約束すると、ゴールの手前で、だれかがかならずダッシュするのです。ひなたは毎年、置いていかれるのです。……だから、となりをずっといっしょに走って、見ていてくれる人がいるのは、いいことなのです。……その人の机、はやく届くといいのです。
まとめ:「いっしょにゆっくり走ろうね」は、たいていゴールの手前で破られる。だから今回は、となりで見張る人の机から用意する。