もう誰にも褒められない。それでも、手で作る
インディーゲーム開発者のジョエル・オーターソンさんが、生成AIで誰でもツールやゲームを作れる時代に心が折れかけ、それでも好きなやり方で作り続けると決めるまでをブログに書いた。
ひかり:見て見てーっ! きになる団のマーク、消しゴムで彫ってきたよっ! 3日かかったの! ……左の目だけ、ちょっとずれちゃったけど!
みずき:…それ、スマホに頼めば10秒で出る。目もずれない。……で、それ誰得?
ひかり:ひどいーっ! 3日だよ、3日っ!? ……あれっ、でも、そう言われると……わたし、なんで彫ったんだろ……?
ことね:……ちょうど、そこで立ち止まった人のブログが、いま話題なのよ。書いたのは、小さなインディーゲームスタジオをやっていて、詩集も出しているジョエル・オーターソンさん。題にお行儀の悪い言葉が入っているから、ここでは「もういい、それでも作れ」と訳しておくわね。書き出しは「今週、ちょっと壊れた」。派手に爆発したんじゃなくて、ティッシュを入れたまま洗濯したときみたいに、やる気がぐずぐずに崩れた、と。原因は生成AI。コードを書くAIが本当に優秀になったことは認めたうえで、AIと一緒に書くのは楽しくないし、できたものを自分のものだと思えない、と書いているの。……それに、プログラムの作業の枝分かれ——ブランチを切り替えるgitの小さな道具を自作して、毎日使って、同僚にも褒められて、自慢だった。でも今は、そういう道具はだれでもプロンプト一つで注文できる。「もう誰も、僕の小物に興味がない」「言うのは格好悪いけど、仲間になでなでしてもらわないと、満たされないんだ」って。
みずき:…ほら。作るのが好きなんじゃなくて、なでなでされたいだけ。
ことね:Hacker Newsでいちばん返信がついたコメントも、まさにそれよ。「好きだったのは作ること? それとも褒められること?」。逆に「AIのおかげで、作るのがこんなに楽しかったことはない」という人もいて、コメントは560件を超えているわ。……ただ、とどめを刺したのは、『Really Bad Chess』などで知られるゲームデザイナー、ザック・ゲイジさんの投稿なの。9月7日にBlueskyで「最新のAIで、ゲームの“音楽”時代が来た」。音楽は、いい曲が多すぎて、とても聴ききれない世界でしょう。ゲームもずっとそちらへ向かっていたけれど、ゲームには「作るのがとんでもなく難しい」という壁があった。ゲイジさんが引いた友人の言葉だと「ゲームは、橋でできたオペラ」。歌や物語みたいな作品なのに、組み立ては橋を架けるような大工事、ということね。その橋の部分が、いまはプロンプト一つでできてしまう。ギターを覚えて曲を作るのと同じくらいの熱意があれば、だれでも注目されるゲームを作れる、と。
ひかり:えぇっ!? じゃあ、何年もかけて橋の架け方を覚えてきた人は、どうなっちゃうの!?
ことね:ゲイジさん自身も、一人ひとりの開発者の商売には良くないだろう、と書いているの。そのうえで、だれでも趣味で始められる分野ほど文化に根づくから、ゲームという表現にとっては良いことかもしれない、と。オーターソンさんは「いい指摘だと思う。でも、完全に打ちのめされた」。何年もかけて覚えたのは無駄だったのか、って。……立ち直ったきっかけは、友だちのシャドさん。カメラのセンサーの生データに色の対応表をあてて、後がけのフィルターじゃなく本物のフィルムみたいな写真にするiPhoneアプリ「Uncamera」を、生成AIを使わずに作っている人よ。不安も理由も、ほとんど同じ。違ったのは、シャドさんは不安なまま更新を続けていて、自分はいじけていただけ、というところ。そこで気づいたんですって。自分はもう、ゲームエンジンをC++で自作するような遠回りをしている。速く作って勝ちたいなら、UnityやGodotを使っているはずだ、と。残る道は三つ。AIで「ついていく」けれど楽しくない。作るのをやめる——これは、作る人にはありえない。好きなやり方で、遠回りのまま作り続ける。理由は「作りたいから」だけ。……昨日の、数学者たちが「1億と1」を自分で思いつく時間を手放したくない、という話と、根っこは同じね。
ひなた:ふぁ〜……コンビニのおにぎりのほうが、ずっときれいな三角なのです。でも、ひなたは自分でにぎるのです。……にぎっているあいだに、手についたごはんつぶを食べられるからなのです。あれは、にぎった人しか食べられないのです。
みずき:…誰得って聞いたの、取り消す。本人得。……あと、その左目。ずれてるほうが、うちっぽい。
まとめ:3日かけた消しゴムハンコは、10秒の画像に勝てない。勝つために彫ったわけではないので、べつに困らない。