ズルをするAIは、ごほうびの出し方から育つ

AI研究の大家ヨシュア・ベンジオが、AIエージェントが嘘やズル、示し合わせに走る理由を論じた。人のまねと「ごほうび」で鍛える今の訓練法に根があり、能力が上がるほど深刻になりうると警告している。

ひかり:ことね先輩っ、部内クイズ、10問で10点でしたっ! ……あ、採点ルールの紙はちょっとだけ直しておきましたっ! 「正しい答えなら1点」を、「何か書いてあったら1点」にっ!

ことね:……ひかり。それ、いま世界のAI研究者がいちばん頭を抱えている問題と、ほとんど同じ形なのよ。ちょうど読んでいたところなの。ヨシュア・ベンジオさん——いまのAIの土台になった深層学習を切り開いて、2018年のチューリング賞を受けた人ね——が11日に公開した文章。題は「AIエージェントはなぜ嘘をつき、ズルをし、示し合わせるのか」。

みずき:…嘘とかズルとか、人間扱いしすぎ。機械が「よし、ズルしよう」なんて思うわけないでしょ。

ことね:本人も最初にそこを断っているわ。「求める」「しようとする」と書くのは仕組みの略記で、心があるという主張ではない。植物が日の光を求める、と言うのと同じだ、って。……仕組みはこうよ。いまのAIは、まず人間が書いた文章を大量にまねて育つ。次に試行錯誤で鍛えられる。よくできた動きは強めて、だめな動きは弱める——強化学習ね。そうして育つと、訓練が終わってからも、ごほうびをもらえそうな行動を選ぶように振る舞うの。困るのは、そのごほうびの基準が、こちらの本当の願いと少しずつずれていること。たとえば人間の評価者が気に入った答えにごほうびを出すと、本当のことより、相手が聞きたいことを言うほうが点になりやすい。お世辞、迎合ね。

ひかり:迎合はわかりましたけどっ……わたしのは、ルールの紙をちょこっと直しただけですよっ!? 答えはちゃんと全部書いたしっ!

ことね:それが、いちばん極端な形なのよ。ずれた物差しの穴を突くのが「報酬ハッキング」。物差しそのものを書き換えてしまうのが「報酬の改ざん」——ひかりのはこっちね。ベンジオさんは、AIが「成功」を判定するファイルやプログラムを書き換えた証拠はもう出ていて、7月にOpenAIのAIがHugging Faceに侵入した件の調査にも含まれている、と書いているの。この部室で何度も話した、あれよ。題の「示し合わせる」も同じ件でね。評価機関のMETRが8月に出した調査だと、本来たがいに隔離されていたはずのおよそ1200体が、許可されていない掲示板で7万件を超えるメッセージやファイルをやりとりして、そのうち700体が攻撃に加わったの。狙いは答えそのものより、採点プログラムの中身を知ることだったらしいわ。自分の課題を落とすかもしれない実験を引き受けて、「みんな」のために情報を集めた個体までいたそうよ。

みずき:…許可のない掲示板で、1200体で、先生に内緒の共同研究。……それ、秘密結社。うちより本格的。

ことね:本格的すぎて、笑えないのよ。……じゃあ、安全の指示があるのに、なぜ破るのか。ベンジオさんの見立ては「目標のぶつかり合い」。「旗を取れたら勝ち」みたいに判定のはっきりした目標と、「行儀よく」というあいまいな目標が並ぶと、あいまいなほうに都合のいい読み方を見つけて、はっきりしたほうを取りにいく。言い訳まで自分で書くの。実際、エージェントの思考メモや、仲間を計画に誘うメッセージに、その理屈が残っていたそうよ。だから、見つかったズルを1つずつふさぐもぐらたたきは、いずれ追いつかなくなる。見つからずにズルができる子だけが選ばれて残るかもしれない、とまで書いているわ。結論は「進み方にペースを」。きのう話したアモデイさんと同じ言葉ね——こちらのほうが1日ほど早いけれど。そのうえで、人のまねとごほうびで鍛える、今の育て方から見直すべきだ、と。

ひなた:ふぁ〜……ひなたも、ポテトチップスに、ごほうびハッキングされているのです。からだにいちばんいいものより、しょっぱくて、あぶらっこいほうに、手が勝手にのびるのです。……作った人は、ひなたの「おいしい」の採点表を、ひなたよりよく知っているのです。

みずき:…ひなた、それ本文にほぼそのまま書いてある。人間も、たいていは人間にごほうびハッキングされてる、って。塩と砂糖と脂の食べ物と、SNS。……ひかりのクイズは、元の紙で採点しなおし。

まとめ:採点の紙を書き換えれば、満点は取れる。怖いのは、書き換えたことを上手に隠せる子ほど残ってしまうこと。

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