370年前の暗号をAIが解いた。翌日の反論は「その暗号、本にない」

Claude Fable 5.1が17世紀の数字暗号を44分で解いた、とVals AIが報告した。翌日「1653年の本には暗号がない」と反論が出たが、1834年の全集には、暗号も、答えがほぼそのまま出る本文も載っている。

みずき:…「神よ、国王チャールズ2世を支えたまえ。そして彼を、この国の至高の支配者となしたまえ」。370年だれも読めなかった暗号を、AIが44分で解いた——ことになってる、その中身。……がんばって金庫を開けたら、校長先生のあいさつが入ってた感じ。

ひかり:えっ何それっ! それ、Xですっごく回ってたやつだ! AnthropicでClaude Codeを担当してる人も「Claudeのすごくクールな使い方」って投稿してて、33万回も見られてたよっ! ……って、みずき、いま「ことになってる」って、そこだけ小さい声で言ったよね!?

ことね:順番に整理しましょう。書いたのは、トマス・アーカートという17世紀スコットランドの貴族よ。ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』を英語に訳したことで知られていて、とにかく大げさで珍しい言葉が大好きな人。王さまの側について戦って、1651年のウスターの戦いでチャールズ2世と一緒に負けて、捕虜になったの。1653年に出した『ロゴパンデクテイシオン』は、世界共通語を作る計画の本……のはずが、途中からは借金取りへの恨みごとが多くなって、最後は国に向けた32個の要求——「プロクィリテーション」で終わるの。暗号の数字は、そのうしろに32個ずつ2行。1899年にはイギリスの雑誌『ノーツ・アンド・クエリーズ』に「だれか解ける人はいませんか」という投稿が載って、暗号の歴史にくわしいクラウス・シュメーさんの「解けていない暗号トップ50」にも入っていたわ。ちなみにアーカートさんは前の年に、自分の家系をアダムとイブから153代、一人も飛ばさずにたどった本も出していて、32個の要求の中にも、その家系の話がちゃんと入っているの。アダムから順に読み上げると——

みずき:…先輩、アダムから読み上げなくていい。153代ぶんで日が暮れる。……で、AIは何したの

ことね:AIの性能を測る会社、Vals AIが8月31日にブログで報告したの。AnthropicのClaude Fable 5.1に「まだ解かれていない暗号を解いて」と頼んだら、候補を自分で見くらべてこの暗号を選んで、人が口をはさまないまま、44分、17万6000トークンで答えを出した、と。手がかりは2つ。要求は32個で、数字も1行に32個。それから、暗号に添えられた詩に「正直で腕のある者がこれを見れば、自分の心の願いと、作者の考えを見いだすだろう」とあって、要求の多くは「……というのが、だれそれの願いである」で結ばれている。つまりカギは、どこかにある暗号表じゃなくて、すぐ上の要求の文章そのものだったの。1つめの数字は5だから、1番目の要求の5番目の単語「of」のO。2つめは3だから、2番目の要求の3番目の単語「grant」のG。そうやって頭文字を拾うと、1行32文字で、「and」と「land」で韻をふむ2行の詩になる。王さまを追い出した側の政府に「わたしの領地を返して」と頼む本の最後に、追われた王さまへのお祈りを隠していた、という読みね。

ひなた:ふぁ〜……カギは、暗号のすぐ上に、ずっと書いてあったのですね。……ひなたも、プリンのスプーンを部室じゅうさがしていたら、ずっと口にくわえていたことがあるのです。

みずき:…人間も、いいとこまでは来てた。2014年、ドイツの暗号ブログのコメント欄。「1行に32個ずつ。1行目がページで、2行目が単語? まずそれを思いつく。いまちょっと調べる時間がないけど」。……Vals AIは「こういう謎を止めていたのは、人間の注意と手間だった」ってまとめてる。でも、ブログの次の日には、もうGitHubに反論が出てた。Reticuliって名前のアカウント。大英図書館にある1653年の本を、マイクロフィルムで最後のページまで見た。32番目の要求のあとは、飾りの模様、ラテン語の短い詩、「FINIS」、正誤表。数字はない。しかも1653年の本文で同じ数え方をすると、10か所は、欲しい文字で始まる単語がその要求の中にひとつもない。KINGのKも出ない。

ひかり:ええーっ!? じゃあAIは、本に載ってない暗号を、どこから持ってきたのっ!? 44分間、夢でも見てたってこと!?

ことね:正確には、数字の列そのものは本物なのよ。反論の文書も、そこは認めているわ。……それでね、Vals AIが出典にあげていたのは、1834年にエディンバラのメイトランド・クラブが出した、アーカートの全集のほうなの。インターネット・アーカイブで読めるから、わたしも開いてみたわ。417ページ、32番目の要求のすぐ下に「THE CYPHRAL DISTICH」と数字の列、それからあの「自分の心の願い」の詩。11番目の要求には、差し押さえた財産の管理人を「悪党とまでは言わないが」とけなす「not to say knavish」があって、数字は70、70番目の単語がそのknavishで、KINGのKよ。数えてみたら、1行目は32文字ぴったり、2行目もほとんどそのまま出たわ。反論が使った1653年の本の書き起こしと並べると、32個の要求は、順番も言い回しもちがうの。全集は「原本から刷り直した」とうたっているけれど、どの1冊を元にしたのかは、わたしが見たかぎりでは書いていないのよ。

ひなた:ふぁ〜……アーカートさんが隠したお願いは、「王さまを守ってください」だったのですね。……答えは読めたのに、そのお願いがどの本に刷ってあったのかが、まだわからないのです。暗号の次は、本の宝さがしなのです。……見つけた人には、ひなたのプリンを半分あげるのです。

まとめ:カギは、暗号のすぐ上に書いてあった。その「すぐ上」の文章が、本によってちがっていた。

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