凍らせた種は何百年も平気、とはいかなかった
オーストラリアの種子バンクが、マイナス20度で20年以上しまっていた6作物の発芽試験の記録を分析した。発芽率の落ち方の目安は、小豆で17.4年、緑豆で63.5年。昔の理論の見積もりより、ずっと短かった。
ひかり:ねえねえっ、もしも明日、世界じゅうの畑がぜんぶダメになっちゃったら、最初に何の種をまくっ!? わたしはイチゴっ! 世界が終わっても、ショートケーキだけは残したいもんっ!
ひなた:ふぁ〜……ひなたは、小豆なのです。小豆さえあれば、あんこができて、おだんごも、たい焼きも、おはぎも、ぜんぶ元どおりなのです。
みずき:…ひなた。その小豆、冷凍庫にしまっておいても、調べた6種類の中でいちばん早く弱るって。……オーストラリアの種子バンクの論文。今週、ScienceAlertとGIGAZINEが取り上げてた。
ひなた:ふぁっ!? ……小豆さんが、いちばん……!? ひなたの、あんこの未来が……!
ことね:ひなた、まだあんこは無事よ。順番に話すわね。種子バンクは、作物の種を乾かして、低い温度でしまっておく施設よ。いちばん有名なのは、ノルウェーの北極圏の島にある「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」ね。今回のオーストラリア穀物ジーンバンクはそこまで有名ではないけれど、世界でも指折りの大きさと種類の多さで、種は湿度15%まで乾かして袋に密封して、マイナス20度で保管しているの。熱帯の穀物の種の発芽試験を40年も記録してきていて、研究チームは、20年以上しまってあった種の記録を、6つの作物で分析したの。モロコシ、インゲンマメ、大豆、緑豆、キマメ、それから小豆。緑豆は、もやしや春雨になる豆。キマメは、インドの豆カレーによく使われる豆よ。論文は1月に、『Plant Genetic Resources』という学術誌に出ているわ。……ちなみに小豆は、去年Scienceに、3000〜5000年前の縄文時代に日本で栽培化された、という研究が載った豆でもあるのよ。
ひかり:でもでもっ、マイナス20度って、うちの冷凍庫とおんなじくらいだよっ!? アイスだって、ずーっとカチカチだよ! 凍らせておけば、何百年でも大丈夫なんじゃないのっ!?
ことね:凍らせても、ゆっくりとは弱っていくの。この研究は、発芽率の落ち方を、統計の「ひと目盛り」ではかっているのよ。はじめに98%くらい芽が出る種なら、ひと目盛り下がると85%くらい、もうひと目盛りで50%くらい。そのひと目盛りにかかる年数が、小豆は17.4年、キマメ30.7年、インゲンマメ33.2年、モロコシ48.8年、大豆49.6年、緑豆は63.5年。だから、17年たったら小豆が全部だめになる、という意味ではないの。……驚きは、昔の見積もりとの差ね。ScienceAlertによると、古い理論のモデルでは、こういう冷凍の種は何百年、ものによっては何千年も確かめなくていいと考えられていて、モロコシなら、発芽の確認は2901年に1回で済む計算だったんですって。
みずき:…2901年に1回。確認係、何代目に引き継ぐの。……でも、じゃあ毎年確かめればいい、って話でもない。発芽を試すたびに、その種は使っちゃう。論文も、確かめすぎて種をむだにしないように、前回の結果に合わせて、次の確認の時期を種類ごとに決めよう、って書いてる。種子バンクはお金が足りなくて、確認も植え直しも後回しになりがちだから。
ことね:国際的な基準では、発芽率が最初の85%を下回るのが、畑で育てて新しい種を取り直す目安なの。種類によっては、もっと低く決めることもあるわ。……それが本当に役に立ったこともあるのよ。シリアのアレッポ近くにあった国際的な農業研究機関、ICARDAの種子バンク。内戦で職員のほとんどが去るなか、2012年から2014年にかけて、1万4363点がスヴァールバルに送られたの。そして2015年、あの貯蔵庫から初めて種が引き出された。レバノンとモロッコの畑で育て直して、貯蔵庫の担当者は「ひとつの種もなくさず、どれもよく芽を出した」と話しているわ。
ひなた:ふぁ〜……小豆さんは弱りやすいから、ほかのお豆よりこまめに畑で育てて、種を取り直してあげればいいのですね。……そのとき、ちょっとだけ多めに育てて、あまったぶんで、あんこを作るのです。……確認係は、みずき先輩にお願いするのです。ひなたは、あまったぶん係なのです。
まとめ:種子バンクの冷凍庫は、時計を止める箱ではなかった。ゆっくり進める箱だった。