山の上には誰もいないはずだった。1930年、100万人が見つかる

ニューギニア島の高地は1930年まで、外の世界から「人の住めない岩山」だと思われていた。金を探して入ったオーストラリア人が見つけたのは、1万年ほど外と切れたまま暮らす約100万人の谷だった。

ひなた:ふぁ〜……ことね先輩。ひなた、けさバナナを食べて、お砂糖のはいったコーヒー牛乳をのんで、おやつにおさつを焼きました。……この3つ、ぜんぶ同じ島から来た子だって、ほんとうなのですか?

ことね:……惜しいわ。2つまでは合っているの。バナナとサトウキビは、どちらもニューギニア島で最初に作物になったのよ。いま世界で食べられているバナナの主な品種も、世界じゅうで使われているお砂糖も、もとをたどるとあの島に行き着くわ。……でもさつまいもは南米生まれ。そこだけ違うの。ただね、そのさつまいもが「どうやってあの島の山奥まで行ったか」が、まさに今日の話なのよ。

ひかり:えっ、バナナってあの島の子だったのっ!? ……っていうか山奥って何っ!? 話がバナナから急に登山になってるよっ!

ことね:Hacker Newsで1032ポイント、コメント431件ついた読み物があってね。ダニエル・フランクさんという人の「パプアニューギニアのことが頭から離れない」という文章よ。……ニューギニア島には、海沿いの低地と、内陸の高地があるの。1930年まで、外の世界は「高地には人は住んでいない」と思っていた。赤道のすぐそばなのに5000メートル近い山が並んでいて、氷河と雪があって、いつも雲がかかっている。マラリアだらけの湿地を抜けた先に見えるのは、ただの巨大な壁だったのよ。

ひかり:じゃあ、誰も行かなかったから誰もいないと思ってた、ってことっ? ……で、行ってみたら?

ことね:1926年に島で金が出て、オーストラリア人が採りはじめたの。もっと金を探そうとして、マイケル・リーヒーという人が、誰も入ったことのない山をどんどん登っていった。そして1930年、高地の東の端にまぎれこんでしまう。……そこにあったのは空っぽの岩山じゃなくて、マラリアのいない緑の谷と、およそ100万人だったわ。1万年ほど、外と行き来がないまま暮らしていた人たちよ。

みずき:…100万人。ただし「見つけた」は、入ってきた側の言い方。向こうからしたら、知らない人が勝手に上がってきた日。……で、そのリーヒーって人、写真機と映画用のカメラを持っていってる。写真が数千枚、フィルムが数時間ぶん。50年ほど誰も知らないまま置かれてて、1980年に息子さんが16ミリの錆びた缶を7本、記録映画を作ってる人に渡した。1983年の『ファースト・コンタクト』。アカデミー賞の候補にもなってる。……人生で最初に会った外国人が、カメラを回してた。そんな記録、他にない。

ひかり:1万年って、もうすごすぎて分かんないよっ……その間、ほんとに何ひとつ入ってこなかったのっ?

ことね:そこが面白いところで、モノは入っていたの。話だけが入らなかったのよ。さつまいもとたばこは、300〜400年前にスペインとポルトガルが香辛料諸島まで持ちこんだものが、島の西の海岸に渡って、そこから東へ進んだわ。……運んだのは商人じゃなくて、お嫁入りね。隣の集団に嫁いだ人が、実家の畑の苗を持っていく。次の家がそれを植えて、うまくいくから、また隣に渡る。その速さで100年か200年かけて高地を横切ったの。どこから来た植物なのかは、誰ひとり知らないままよ。海の貝も同じで、1万年前の高地の洞窟から出てくるわ。どこから来るのか分からないから、空から降ってくると思っていた集団もいたの。

みずき:…その貝の話が、いちばんきつい。高地では貝が宝で、たくさん持ってる人がえらい人だった。オーストラリア人はそれを知って、飛行機で貝を運びこんだ。食べものの代金に、そのうち働いた賃金に。……最初はすごくいい取引に見えたと思う。でも飛行機は来つづけて、1個持ってるだけで金持ちだった貝が、子どもまで何百個も首から下げるようになって、ただの貝になった。お金の作り方じゃなくて、お金の壊し方のほう。

ひかり:えっ、待って待ってっ! みんな貝が増えて喜んでたのに、増えたせいで貝じゃなくなっちゃったのっ!? ……それ、お年玉が全員100万円になったら、お年玉がうれしくなくなるやつだっ!

ことね:そう、ハイパーインフレね。教科書に載っている現象が、文字を持たない場所で起きたの。……でもわたしが忘れられないのは、もっと静かな話のほう。極楽鳥ってニューギニアの海沿いの鳥でしょう。あれ、はく製がヨーロッパに運ばれるとき、商人が足を切り落としていたの。だからヨーロッパの人は200年ものあいだ、「あの鳥には足がない」と信じていたのよ。学名はいまも Paradisaea apoda——「足のない」という意味だわ。

ひなた:ふぁ〜……貝さんは、どこから来たのか分からなくなって、鳥さんは、足をなくしてしまったのですね。……ひなたのバナナは、ちゃんとおうちを覚えていてあげるのです。

まとめ:貝は出どころを忘れられ、鳥は足を落とされた。1万年のあいだ、行き来していたのはモノだけ。

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