追いかけて、吐かせて、いただく。イルカのバブルスの横取り術
グレートバリアリーフ南部で、バブルスと呼ばれるオスのハンドウイルカが、ギンガメアジを追い回して吐かせ、吐いたものだけを食べる姿が論文にまとまった。クジラ・イルカの仲間の“横取り”を詳しく記録したのは世界初だという。
ひなた:ふぁ〜、お昼なのです。たまご焼きから、いただきま……。……ことね先輩、どうしてそんなお顔で、ひなたのお弁当を見ているのですか?
ことね:……ひなた、いったんお箸を置きましょう。今日の話は、食べながら聞くと後悔すると思うの。オーストラリアのグレートバリアリーフの南、レディ・エリオット島の沖に、島のリゾートのスタッフから「バブルス」と呼ばれているオスのハンドウイルカがいるの。少なくとも2017年から、そのあたりに住んでいるそうよ。この子の“食事のしかた”が、先日『Ecology and Evolution』という学術誌に論文で載ったの。
みずき:…バブルス。入浴剤みたいな名前。……で、なんでひなたのお箸まで止めるの。
ことね:やり方を聞けばわかるわ。バブルスはまず、カチカチという音を出して、その跳ね返りで周りを探るの。エコーロケーションね。それで群れの中から、ギンガメアジを1匹だけ選ぶ。ほかの魚には目もくれず、相手が右に曲がれば右、左なら左。ぴったりくっついて追い回すの。すると魚は、たぶんストレスのせいで……おなかの中身を吐いちゃう。バブルスが食べるのは、その吐いたものだけ。魚そのものには手を出さずに、逃がしてしまうのよ。多いときは、30分で10回これを繰り返したそうよ。
ひなた:ふぁっ……! ……たまご焼き、そっとふたをしたのです。
みずき:…追い回して、吐かせて、横取り。海のカツアゲ。
ことね:専門用語では「労働寄生」というの。ほかの動物がとったエサを横取りすることね。陸や空ではよくある話で、ハイエナやジャッカルは日常的にやるし、トウゾクカモメやグンカンドリは、ほかの海鳥から獲物を奪うの。でも海の中ではずっとまれで、クジラやイルカの仲間でここまで詳しく記録されたのは、世界で初めてだそうよ。研究チームは2021年6月から去年の10月までに、バブルスの食事の場面を20回記録して、そのうち11回がこのやり方だった。著者のひとりは「イルカが“海のいい人”に見えるのは、人間の感覚を当てはめているだけ。笑っているように見えるからかもしれない」と言っているわ。
ひなた:ふぁ〜……でも、バブルスさんには、どの子のおなかがいっぱいか、わかるのですか? からっぽの子を追いかけたら、走り損なのです。
ことね:……ひなた、研究者と同じところに引っかかったわね。著者も「何年も繰り返すうちに、いちばんおなかがふくれた魚を選ぶことを覚えたのかもしれない」と言っているの。見分け方はまだわからないけれど、チームはエコーロケーションが関係しているかも、と考えている。追いかけている最中に、強いカチカチ音と低い音を出しているのは録れていて、それが狙いを定めるためなのか、相手をもっと怖がらせるためなのかは不明。……それにハンドウイルカは、ふつう群れで狩りをするのに、バブルスはいつもひとりだったの。速い魚を自分で追うより、少ない力で済むやり方なのかもしれない、って。ただ、確認できたのはこの1頭だけ。ほかのイルカもやるのかは、これからね。
ひなた:ふぁ〜……ひなたにも、ちょっとわかるのです。おかずをわけてくれるのは、いつも、おなかいっぱいの人なのです。
まとめ:群れを離れたバブルスが覚えたのは、狩りより楽な追いかけっこ。ごちそうは魚ではなく、魚のおなかの中身。