300年前のりんごの正体は、革命から隠された『金の布』だった
メイン州の古い庭に立つ樹齢約300年のりんごの木の正体が、DNA鑑定で判明。フランスで1628年に記録され、革命の混乱から守るため植物園に隠された名品種で、北米で見つかったのは初めてだという。
ひかり:ねえ聞いてっ! メイン州で見つかった樹齢300年のりんごの木が、DNA鑑定で「迷子になっていた名前」を取り戻したんだってっ! りんごに、名前の迷子とか、あるのっ!?
ことね:あるのよ、それが。ワシントン州立大学に、りんごのDNAを指紋みたいに読み取って、どの品種かを当てる先生がいるの。メインの農業団体が、古い農場でみつけた名無しの木の葉っぱを送ったのね。それを台帳と照らしたら……先生、絶句したの。その木は、アメリカのりんご何百種類ものご先祖にあたる木——いわば「おばあちゃん」で、いるはずなのに一度も見つかっていなかった1本だったのよ。幹はもう半分うろになって、傾いた古木なのに、ちゃんと実をつけていたそうよ。
ひなた:ふぁ〜……りんごの木にも、おばあちゃんがいるのですね。……そのおばあちゃんりんご、どんな味なのですか? あまいのですか、すっぱいのですか。
みずき:…で、名前がわからないと、何が困るの。りんごはりんごでしょ。
ことね:そこがりんごの面白いところなの。りんごは種から育てても、親と同じ味にはならないのよ。二本の親から花粉をもらう果物だから、種はいつも「別の子」になってしまう。だから同じ味を残したいときは、枝を切って別の木につなぐ「接ぎ木」でふやすの。人間でいう分身ね。……つまり300年も前の木とDNAがぴったり一致したということは、誰かが遠い昔にこの品種を接ぎ木して、大事に持って海を渡ったという意味なの。風で種が飛んできた偶然じゃない。研究者は前々から「いるはずの、まだ見ぬご先祖」を計算で予想していて、この木はその13番目とぴたり重なったのよ。
ひかり:えっ、じゃあその「名前」は、どこで見つかったのっ!?
ことね:デンマークの大学が持っていた古い品種の記録に、答えがあったの。名前は「ドラ・ドール・ド・ブルターニュ」——フランス語で「ブルターニュの金の布」。1628年のフランスの本にもう載っている名品種で、フランス革命でお屋敷が荒らされたとき、守るために植物園にこっそり隠された、という言い伝えまであるのよ。もともとメインのあたりは、昔はフランスの土地だったの。革命から隠されたりんごの子孫が、海をわたって、メインの古い庭で300年、実をつけ続けていた——北米で見つかったのは、この木が初めて。論文が2024年に出て、ようやく名前を明かせたんですって。
みずき:…映画みたいな話だけど、地味な理由もあるんでしょ。いまスーパーに並ぶりんごって、ほんの十数種類なんだよね。……ことね先輩、これ、この前の「種の話」と同じやつ?
ことね:ええ、根っこは同じ。アメリカには2,500ほど品種があるのに、商売で作られるのは100種くらい、市場のほとんどはたった15種でまわっているの。種類がやせ細ると、ひとつの病気が広がっただけで畑がまるごとやられる。だから昔の木から、いま失われた性質を取り戻しておくことが、未来の保険になるのよ。……ちなみにこのりんご、その後20マイル以内であと2本見つかったの。ひとつは、南北戦争のころに接がれた木からね。
ひなた:ふぁ〜……名前をつけた人がみんないなくなっても、枝をつないでもらったりんごは、まだ実がなるのですね。……そのりんご、ちゃんと食べてあげたいのです。名前を呼びながら、ひとくち。
まとめ:種から育てば、別のりんごになる。だれかが接ぎ木して海を渡らせたから、300年後にDNAが名前を連れて帰れた。