外国語の勉強で脳は若返らない。ただ、粘るらしい

言語学者が「外国語の学習は老いる脳を守るのか」を整理した。バイリンガルは認知症の症状が数年遅く出たという報告がある一方、研究の結果はまちまち。効くのは流暢さより、難しいことを続けることらしい。

ひなた:ふぁ〜……ひなた、きょう新しい言葉をおぼえたのです。「ジュ・ヴドゥレ・アン・クレープ」。……クレープをひとつください、なのです。フランス語なのです。

みずき:…で、その先は。「いくらですか」も「おいしかったです」も言えないでしょ、それ。

ひなた:ふぁ〜……はい。クレープだけなのです。

ことね:それでいいのよ、ひなた。……ちょうど昨日、その話の記事が回ってきたの。コロラド大学ボルダー校で言語学の上級研究員をしているカレン・ストルツノウさんが、おとといThe Conversationに寄せた文章を、Ars Technicaが昨日載せたのね。コメントは113件付いていたわ。テーマは「外国語を学ぶことは、老いていく脳を守るのか」。……前提として、外国語の学習ってものすごく忙しい作業なのよ。単語を覚える。知らない音を聞き分ける。規則を見つける。その場に合う言い回しを取り出す。それを、相手の話を聞いて、意味を取って、返事を組み立てながら、同時にやっているの。……人の脳は一生のあいだ、経験に合わせて形を変えられるわ。神経可塑性というのね。ふたつ以上の言語を使う人は、神経細胞とそのつながりが集まっている灰白質の密度が高かったり、脳の各部をつなぐ線の束である白質のまとまりが強かったり、という報告があるの。

みずき:…で、それ何の役に立つの。密度が濃いと、テストの点が上がるわけ?

ことね:点じゃなくて、耐える力のほうね。認知予備力という考え方があるの。歳をとって脳が変わっても、傷がついても、それでも頭の働きを保っていられる力のこと。ふたつの言語を持っていると、どちらを使うかを絶えず選び分けることになるでしょう。その負荷が予備力を厚くするのではないか、と言われているのよ。……よく引かれるのが、トロントの研究チームのものね。2007年の報告では、もの忘れの相談で来た患者さんのうち、認知症と診断された184人を調べたら、半分ほどがバイリンガルで、その人たちは症状が出た年齢が4年遅かったの。2010年にアルツハイマー病の患者211人で見直したときは、診断が4.3年、症状の自覚は5.1年遅かった。しかも、学校に長く通っていたのは単一言語の人たちのほうだったのよ。

みずき:…その2本、どっちも診療記録をさかのぼって数えたやつでしょ。……この手の「バイリンガルは頭がいい」系、あとから同じ条件でやり直すと出ないことが多いので有名だし。記事の人も正直で、お年寄りに外国語を習ってもらう研究の結果は「まちまち」って書いてる。認知症そのものを防ぐわけでもないし、「老化の特効薬ではない」「アルツハイマーを防ぐ保証はない」ともはっきり書いてある。……で、それ誰得なの。

ことね:そこが、この記事のいちばんいいところなのよ。守れるのは病気そのものじゃなくて、変わっていく脳に付き合っていく粘り。それを認知的レジリエンスと呼んでいるわ。……しかも、効いているのは到達点じゃないかもしれないの。ぺらぺらになったから良かったのではなくて、覚えて、間違えて、直して、をずっと続けている、その途中がいいのではないか、と。……何時間やれば効く、という魔法の数字も無いのよ。研究に使われているのは、教室でみっちりのものから、アプリで毎日ちょっとずつのものまで。期間も数週間から数か月までばらばら。共通しているのは「歯ごたえのあることを、続けている」ところだけ。……あと、大人でも遅くないわ。子どもが得意なのは発音と文法の一部で、大人には語彙と、勉強のやり方の引き出しがあるの。

ひなた:ふぁ〜……わかったのです。じゃあ、ひなたはあした「クレープをふたつください」をおぼえるのです。……あさっては、みっつなのです。

みずき:…それ語学じゃなくて食欲の伸びでしょ。……まあ、続くならどっちでもいいって書いてあるし。

まとめ:若返りの薬でもなければ、認知症を防ぐ保証もない。ただ、むずかしいことを毎日ちょっとずつ続けている脳は、粘るらしい。

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