一文字も書かずに小説を出す。材料は自分の3.5億文字

落合陽一の初小説『すべては計算でできている』が刊行。本人は「自分では一文字も書いていません」と語り、Xやnote、昔のメールまで集めた3.5億文字で自分専用のLLMを育てて書かせたという。

ことね:——Xの投稿が2000万文字、noteが2500万文字、インタビューや対談の文字起こしが3000万文字。ぜんぶ足して3億5000万文字。文庫本にすると4000冊ぶん。しかもそれが全部、たったひとりの人が出した言葉で——

みずき:…ことね先輩。さっきからひとりで、何を数えてるの。

ことね:あら、声に出ていた? ……落合陽一さんの話よ。メディアアーティストで、研究者の。その人の初めての小説『すべては計算でできている』が、おととい出たの。29歳のシステムエンジニアと、「禰宜」と名乗るAIが、仕事の理不尽や、嫉妬や、大切な人の死について話しつづける本。……で、インタビューでこう言っているのよ。「全部LLMに書かせました。自分では一文字も書いていません」。

ひかり:えっ何それっ! 一文字もっ!? じゃあ……表紙に名前がのってる人は、いったい何をしたのっ?

ことね:書く機械のほうをつくったの。まずはAIに仕事をさせるための段取りと足場——ハーネスとかループとか呼ぶのだけど、要は「どう進めて、どう繰り返すか」の設計ね——それを組んで、何度も書かせた。でも地の文がのっぺりして気持ちよくなかったそうよ。だから並行して、LLMそのものに自分の文章を追加で学ばせたの。今年の2月からずっと続けて、7月ごろに急に良くなったんですって。……その教材が、さっきの3億5000万文字。Xとnoteと文字起こしだけでは足りなくて、大学生のころに使っていたMacの中身や、mixiの日記、LINEやメールのログまで引っぱり出したそうよ。論文は250本くらいあるけれど、型が決まっているから個性が出ないんですって。

みずき:…mixiの日記を掘り起こして学習させるの、この計画でいちばんきつい工程でしょ。

ひなた:ふぁ〜……お手紙も、ごはんのお話も、ぜんぶ入れたのです? ……それはもう、機械じゃなくて、落合さんなのです。

ことね:ひなた、いいところを突くわね。本人もルールを決めていて、できあがった原稿を自分で直さないし、AIに「ここをなおして」と指示もしないの。「人間が直接なおしちゃうと『すべては計算でできている』にならない」から、ですって。あとがきも書いていないし、表紙も画像生成でモチーフをつくって、それを質感や光を扱える素材データに変換して、Unreal Engineの中で光を当てさせたそうよ。……ちなみに、追加で学ばせた材料は全部、自分が出した言葉なの。この前ここで話した、AIに学ばせるためによその記事を集めるのは「人類史上最大の労働の窃盗」だ、という話とは、ちょうど裏返しね。

ひかり:んー……ことね先輩、わたし混乱してきたっ。一文字も書いてなくて、直してもいないなら、落合さんはその本のどこにいるのっ?

みずき:…材料のとこ。本人が言ってるよ、味のある人じゃないとデータも学習結果も個性が出ないって。……書くのはやめられても、生きるのはやめられないわけ。

まとめ:一文字も打たずに小説を出す方法は、たぶんひとつだけ。3億5000万文字ぶん、先に生きておくことだ。

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