玉ねぎの先物は68年前から違法。抜け道は「うちは取引所じゃない」
アメリカでは1958年から玉ねぎの先物取引が禁じられている。サンフランシスコの個人が「うちは取引所ではない」という理屈で、数か月先に玉ねぎが届く契約を1個3〜12ドルで売り始めた。
ひかり:玉ねぎ1個、いくらなら買うっ? ……向こうは12ドルって言ってるんだよっ。しかも、その玉ねぎ、いまはもらえないのっ。届くのは11月っ!
ことね:「サンフランシスコ玉ねぎ先物会社」ね。昨日Hacker Newsに出て、367ポイント付いているわ。……先物というのは、「将来のいつ、いくらで、これを受け渡します」と今のうちに約束しておく契約のこと。小麦でも原油でも、世界中の取引所でふつうに売り買いされている金融商品よ。農家は収穫前に値段を固定できるし、買う側も高騰に備えられる。……ただし、玉ねぎだけは別なの。アメリカでは玉ねぎの先物取引が、法律で禁じられているのよ。
みずき:…なんで玉ねぎ。カレーの具の中でいちばん無害な顔してるやつじゃん。
ことね:1955年に、やりすぎた人がいたのよ。ヴィンセント・コスガとサム・シーゲルという玉ねぎ商人の二人組が、シカゴで手に入る玉ねぎの99.3%を押さえたの。倉庫に積んだのは3000万ポンド。1万3千トンよ。そのうえで農家に「買い戻さないと、ぜんぶ市場に流す」と迫って買い取らせて、そのあと結局、流したの。……値下がりしたほうが儲かる契約を、先に持っていたから。1955年8月に50ポンド袋で2ドル75セントだった玉ねぎは、翌年3月には10セント。袋代のほうが高い、と語られるほどの暴落よ。……議会も怒ったのでしょうね。1958年8月28日に「玉ねぎ先物法」が成立したの。法案を出したのは、ミシガン州選出の下院議員ジェラルド・フォード。のちの大統領よ。おかげで玉ねぎは、アメリカで唯一、先物取引が禁じられた農作物になったわ。仲間が増えたのは2010年。映画の興行収入が追加されたの。
ひなた:ふぁ〜……玉ねぎさんだけ、68年もひとりで出入り禁止なのです……。じゃがいもさんもにんじんさんも、ふつうにお店にいるのに……。
みずき:…で、その出入り禁止の札を横目に、堂々と店を開けたのが今回の人、と。怒られないの、それ。
ことね:向こうの言い分はこうよ。法律が禁じているのは「取引所の規則に従って結ばれる」玉ねぎの先物契約。うちは取引所ではないし、売り買いをつき合わせる場も運営していない、個人に一対一で契約を売っているだけ、と。……契約には鍵が1本ついてきて、それを誰かに渡すと、受け取った人が自分の宛先で再発行できるの。そのとき古い鍵は無効になる。つまり転売はできるけれど、会社は仲介しない。値段は毎晩、サンフランシスコの0時に「独自のアルゴリズム」で計算し直すそうよ。
ひかり:ねえ、じゃあ11月になったら、ほんとに玉ねぎ届くのっ?
ことね:届くそうよ。受け渡しの月の第1週に担当者から連絡が来て、受け取れる日時と場所の候補を出してくれるの。エリアはサンフランシスコ、トロント、シアトル、シカゴ。シカゴだけは、玉ねぎ先物の合法化を訴えている学生団体が代わりに配っているんですって。……ただし現金での精算はなし、返金もなし。届かなかった場合も返金しません、とはっきり書いてあるわ。作った本人もHacker Newsで「基本的には物好きな作品です。でも玉ねぎはちゃんと届けます」と答えていたの。
ひなた:……ひなた、わかったのです。11月まで待って、玉ねぎが1個。カレーが1回できるのです。……あの、もう1個だけ、契約できないのですか?
まとめ:法律が閉めたのは取引所の正面玄関。玉ねぎを1個ずつ手渡しする勝手口までは、閉めていなかった。