ツタンカーメンの壁の向こう。今度は重力ではかった
ツタンカーメン王墓の壁の先に部屋があるのでは、という11年越しの論争に新しい測定が出た。地中レーダーに加えて、地球の重力のごくわずかな差を1200回以上はかる手法を王家の谷で初めて使い、直角を持つ低密度の構造をとらえたという。
みずき:…「ツタンカーメンの墓の壁の向こうに、まだ部屋があるかもしれない」。……この見出し、11年ずっと見てる気がする。
ひかり:えっ、11年っ!? そのときわたし、まだ5歳だよっ! ……っていうか壁の向こうって何っ? ツタンカーメンのお墓なんて、とっくに全部調べ終わってるんじゃないのっ!?
ことね:それが、ずっと引っかかっている場所があるのよ。……エジプトの王家の谷にある、KV62と呼ばれるお墓ね。作られたのは紀元前14世紀で、見つかったのは1922年。金のマスクで有名な、あのお墓よ。ただ、王さまのお墓にしては、不自然なくらい狭いの。……2015年に、イギリスのエジプト学者ニコラス・リーヴスさんが言い出したの。埋葬室の北の壁に、うっすら線と割れ目が走っている。壁画にも、あとから描き直した跡がある。これは古代エジプトのお墓でよく使われた「偽の壁」——その先の部屋を隠すための仕切りではないか、と。もともとはもっと大きな王墓で、ツタンカーメンが急に亡くなったから、入口のあたりだけ広げて彼を納めて、奥は塞いだ。じゃあ奥にいるのは誰か。リーヴスさんが挙げたのが、ツタンカーメンの前に王位にあったとされるネフェルティティよ。あの、横顔の胸像の人ね。多くのエジプト学者が、彼女は短いあいだファラオとして国を治めたと考えているわ。
ひかり:ネフェルティティが壁のうしろっ!? ……えっ、じゃあ壁こわせばいいじゃんっ! こんこんって叩いて、空洞だったら、ぱかっと!
みずき:…その「ぱかっと」がやれないから11年たってるんでしょ。世界一有名な壁画だよ、それ。……で? 今回は何が変わったの。
ことね:調べ方が、外に出たの。……17日にNatureが伝えたわ。まとめたのは、カイロのアイン・シャムス大学の考古学者マムドゥーフ・エルダマティさん。エジプトの元考古大臣ね。国立天文学・地球物理学研究所の人たちと、お墓の中から壁に地中レーダーをかけ直したの。そのデータを解析したのが、ジョージ・バラードさんという構造技術者で、地球物理の調査会社の代表。過去の調査のぶんも全部集めて見直したそうよ。そうしたら、埋葬室から外へ伸びる、幅2メートルの通路の跡が見えた、と言うの。しかも、がれきがぎっしり詰まった通路。これまでのチームが見逃したのは、壁のすぐ裏に「がらんとした空間」があるつもりで探していたからだ、というのが彼の見立てよ。……ただ、中から当てるレーダーは、そんなに遠くまで届かないの。だから今回は、お墓の上と周りの地面に出て、重力をはかったわ。
ひなた:ふぁ〜……重力で、お部屋が見えるのですか? ……ひなた、重力はリンゴを落とすおしごとだと思っていたのです。
ことね:その落とす力が、場所によってほんの少しちがうのよ、ひなた。地面の下に空っぽのところがあると、その真上では、引っぱられる力がごくわずかに弱くなるの。その差を拾って、地面の下の詰まり具合を地図にする。掘らなくて済むやり方ね。王家の谷でこれを使ったのは、今回が初めてですって。35平方メートルの範囲で、1200回以上はかったそうよ。出てきたのは、バラードさんの言葉で「直角を持つ、低密度の構造。しかもその軸が、北の壁と平行に並んでいる」。……自然にできた空洞は、ふつう直角にはならないの。おまけに2017年に別のチームが電気で地中を測ったときのデータにも、似た場所に反応があったのよ。当時はKV62とは関係ないとして片づけられていたのだけれど。……壊さずに中を見る、という方向は前にもあってね。2017年には、宇宙から降ってくるミューオンという粒子を使って、クフ王の大ピラミッドの中に大きな空洞が見つかっているわ。先日この部屋で話した、鳥取砂丘に建てる小説の、あのピラミッドね。……そして今回の部屋は、もしあるなら、ほかのどの入口ともつながっていないの。つまり、古代から誰も入っていないことになるわ。
みずき:…外の専門家、まだ拍手はしてない。ブラッドフォード大でレーダーをやってるギャフニーさんは、報告を「魅力的だ」としつつ「はっきりした結論を出すには情報が足りない」。本人の言葉で「かなり、どっちつかずな気分」。キール大のスタイルズさんは重力のほうを「部屋がありそうに見える」。ただし「もっと詳しく見たい」。……そのデータ、まだ全部は出せない。エジプト当局の許可が下りてないから。バラードさん自身も「検出できる限界ぎりぎりを見ている」って認めてる。……で、それでも次は穴を開ける話になってる。直径7〜8センチを何か所か。そこからカメラを積んだ小さい車を送り込む。決めるのはエジプトの最高考古評議会で、通れば早ければ11月。
ひなた:ふぁ〜……がれきが、ぎっしり詰まった廊下……。ひなた、あんこのぎっしり詰まったおまんじゅうを思い出したのです。……あの。そんなに一生懸命ふさいだということは、向こうに、ふさぎたいものがあったということなのですよね?
まとめ:壁の向こうにネフェルティティがいるかは、まだ誰も知らない。ただ今度は、穴を開ける月の話まで出てきた。