宇宙は加速していないかもしれない。超新星1701件を測り直したら
インドのタタ基礎研究所とオックスフォード大のチームが、超新星1701件の明るさを「爆発前の星の年齢」で補正し直したところ、宇宙の膨張は加速ではなく減速と出た。すぐに反論も出ている。
ひかり:ねえねえ、へんなこと聞いていいっ? ノーベル賞って、あとから「やっぱり違いました」ってなることあるのっ!?
ことね:ずいぶん物騒な入り方ね……。でも、心当たりはあるわ。きのう出たニュースでしょう。「宇宙の膨張は加速している」——これ、20年以上ずっと教科書に載ってきた話なの。1998年に、遠くの超新星を調べていた2つのチームが別々に気づいて、2011年のノーベル物理学賞になったわ。その加速をうしろから押している正体不明の何かが「ダークエネルギー」ね。……そこに「加速している証拠は得られなかった」という再分析が出たのよ。
ひかり:ちょっと待ってっ。超新星って、星がドカーンって爆発するやつだよねっ? 爆発を見て、なんで宇宙の広がり方までわかるのっ? つながりがぜんぜん見えないんだけどっ!
ことね:そこが賢いところなの。使うのは「Ia型超新星」という種類でね。燃え尽きた星の芯——白色矮星が、決まった条件で爆発するものなの。光の色や明るさが時間とともにどう変わるかを見ると、そいつが本当はどれくらい明るいかを言い当てられるのよ。……つまり、宇宙のあちこちに同じワット数の電球が置いてあるようなもの。同じ電球なら、暗く見えるほど遠い。そうやって距離をはかるの。もうひとつ、宇宙が広がると光の波長が伸びて赤っぽくなるでしょう。これが「赤方偏移」で、こちらは「どれだけ広がったか」を表すわ。……電球ではかった距離と、赤の伸びから予想される距離。この2つのずれ方から、広がる勢いが増しているのか、ゆるんでいるのかが読めるのよ。
みずき:…で、今回いじったのは電球のほう。
ことね:そのとおりよ。インドのタタ基礎研究所とオックスフォード大学のチーム——名誉教授のスビル・サーカーさんたちね。前から言われていたの。若い星が多い銀河で起きた超新星ほど、色や明るさの変わり方で直したあとでも、まだ暗いままだ、と。先行研究はそれを「爆発する前の星が若いほど、超新星は暗くなる」と読んだわ。……本当は暗い電球を「これも同じワット数のはず」と思って見ると、どうなると思う? 暗く見える理由を「遠いから」に押しつけて、距離を長く見積もってしまうの。距離を長く見積もるほど、結論は「思ったより遠い=広がりが速まっている」に寄るわ。だからサーカーさんたちは、定番のカタログ「Pantheon+」——Ia型超新星1550個について、明るさの変化を記録した1701件ぶんのデータね——を、赤方偏移ごとの「爆発前の星の平均年齢」で補正し直したのよ。結果は、どの方向にも共通する変化が減速。広がってはいるけれど、勢いはゆるんでいる、と出たわ。
みずき:…ただ、それで全部きれいになったわけでもない。特定の方向だけは、補正のあとも加速して見えてる。しかも強さが、補正する前とほとんど変わってない。……本人たちの言い分は「それ、地球が動いてるせい」。天の川銀河ごと、まわりの銀河と一緒にどこかへ流れてる。その流れていく方向ほど強く出て、遠い超新星ほど弱まるって。
ひなた:ふぁ〜……それ、ひなた、わかる気がするのです。バスの窓から外を見ていると、近くの電柱はびゅんびゅん後ろに行くのに、遠くのお山はずっとついてくるのです。……動いているのは、じぶんのほうなのです。
ことね:筋のいいたとえね、ひなた。……ただ、この補正そのものに異論が出ているの。サウサンプトン大学のフィル・ワイズマンさんたちよ。ふつうの分析では、超新星が属する銀河の星の総質量などを見て明るさを直すでしょう。それをきちんと入れたうえで、サーカーさんたちが根拠にした先行研究を検証し直したら、超新星の明るさと銀河の星の年齢の関係が、はっきりしなくなったんですって。つまり年齢ぶんの差も、もとの補正でもう吸えている、と。そのうえ、銀河にある星ぜんぶの平均年齢が、爆発したその一個の星の年齢をそのまま表すわけじゃない、とも指摘していてね。結論は「宇宙の加速膨張を支持する証拠は揺らがない」。……サーカーさんたちも論文の中でこの異論に触れて、議論が続いていることは認めているわ。決着のつけ方も書いてあるのよ。ベラ・C・ルービン天文台の広域観測——空の同じ場所を何度も撮り続ける計画で、数十万個の超新星が見込まれているの。
みずき:…20年以上いちばん確かだった話が、電球のワット数の直し方ひとつで揺れてる。……で、どっちが正しいか確かめるのに、あと数十万個。
ひなた:ふぁ〜……ひなた、なんだか安心したのです。テストで自信まんまんだった答えに赤ペンが入っても、宇宙もおなじなのです。……ものさしのほうが、まちがっていることがあるのです。
まとめ:電球のワット数を疑ったら、宇宙の速さが変わった。1701件では決まらず、決着は数十万個先に持ち越しになった。